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貴方は、その力を使って何をしますか?
別に。だって、この力、俺からすれば悪夢その物だもの。
この力を使って人々を助けられるとすれば、どうしますか?
救えない。救えるなら使ってる。
貴方に望みは有りますか?
たった一つ。俺の望みは―――――
弐話 〜 一望千里 〜
朝の光に眼が覚める。ふぁ・・・、と一つ欠伸。
体を起こし時間を見ると、八時二十分。走っても間に合わない時間だった。
どうでも良いや、と眼を擦る。今日も晴れ。少しばかり雲が出ているが、代わり映えの無い世界が今日も広がっている。
見た夢を除けば。
最近良く見る夢は、睡眠妨害の何者でもない。
溜息を吐き、制服に着替える。朝はこれと言ってする事は無い。
弁当なんて作る気にもならないし、髪型を整えたりなんて尚しない。
起きてする事と言えば、制服に着替えるだけだろうか。
どうでも良い、と頭を振って家を出る。
梗哉は親元を離れ一人暮らしをしている。仕送りが多いのでバイト等、していない。
梗哉「眠たいな・・・・・・」
呟いてまた欠伸。取り敢えず学園に向かう為、歩き出した。
桜並木は今日も桜の花びらが繁盛している。
鬱陶しいぐらいに舞い散る花弁は、登校の妨げにしかならない。
数本切っても判らないのではないだろうか、それ位咲いている。
そこで、何かの音が聞こえて来た。前から聞こえてくる音は、少し音が外れている。
梗哉「・・・・・・・・・?」
徐々に音に近付いていく。自分は歩くのが遅いが、相手はそれ以上だ。
そうして、歩いてる人影を発見。
後ろ姿から女の子だと判った。徐々に距離が狭まり、追い越していく。
ちらりと横目で見ると、木琴を持った女の子がいた。まぁ、無視。
知っている人―――水越萌―――だったが、相手は恐らく気付いていないだろうし、別にどうって事は無い。
梗哉「―――――」
無視して通り過ぎる。そのまま歩むスピードは変えずにそのまま学園に向かった。
学園に着いた時には、めでたく一時間目が始まっていた。
どうせ、今から入ったって良い事は無いので、屋上に向かう。
他の学園はどうか知らないが、風見学園は屋上が解放されている。
風に当たるなら良い場所だった。只、寒いが。
梗哉「寒い・・・・・・」
言って移動。図書室に腰を落ち着けた。図書室の先生は居らず、取り敢えずボーっとしておこうと決めた。
十分ほど経って、ドアが開いた。目線だけを移すと担任の暦先生―――白河暦が居た。
何時も不機嫌そうな顔に、タバコ、そして赤い髪の毛の女性。
そして、白河ことりの姉だった。
暦「おや、水城じゃないか。何で此処に居る?」
言いながら近付いてくる。顔は怪訝そうな表情。
梗哉は何も言わずに天井を見ている。
ぴた、と立ち止まった時には隣に居た。本当、どうやったら瞬間移動染みた事が出来るのだろうか・・・・・・。
梗哉「別に、何もしてませんよ」
暦「寝坊か?」
梗哉「さぁ、どうでしょう?」
にっこりと微笑む。小悪魔の笑み、そう言われている表情。
正直、先生だろうが生徒だろうが関係なしに崩すこの表情は暦相手には通じない。
暦「まぁ、良い。で、何故此処に居る?」
折角話題を逸らして、会話を終わらせようとしたのに。
心の中で溜息を吐き、口を開く。
梗哉「遅刻して、学園に来たら一時間目が始まってたからです」
暦「そうか。HRの時に居ないから屋上辺りにでも居ると思ってたんだがな」
くくっ、と笑って反対方向に歩いて行く。
そうして、ドアを開ける前に―――――、
暦「二時間目には出る様に」
一言言って去っていった。それを半分訊いて、目線を彷徨わせる。
この世界は平和だった。何事も起こらず、平凡な日々。
それも長くは続かない。
梗哉「・・・・・・っ!?」
突如乱入してきた声に辺りを見回すが、誰もいない。
二時間目、出ないでおこうかな?と思いながら眼を閉じた。
「やはり、彼は―――ですか」
「そうらしいな。何に――しているかは知らんが」
「どうします?」
「一般人のままなら良かろう。放っておけ」
「はっ」
"人間らしき者達"の声が掻き消える。
後に残ったのは寒空だけだった。
チャイムの音が眠りから引き起こす。
頭を軽く振って時計を見ると、一時間目が終わった所だった。
面倒臭いし、出ないでおこう、と決め付け寝ようとした瞬間、
??「やっと見つけたぞ、梗哉!!」
大声で突入して来た奴がいた。
また、アイツか・・・・・・。と心の中で毒づきながら、興味無さそうにそっちを向く。
ソイツは俺の眼の前にやって来て、首根っこを掴んだ。
純一「ったく、お前の靴箱見て、来てるって判ったが、教室に行ったらいないんだもんな」
梗哉「そぅなんだ」
純一「お前の事だろうが!!ったく、かったりぃ・・・・・・」
かったるいなら探さないで良いと思うのだが。
そんな心の中の文句なんかお構いなしに、梗哉を引き摺っていく。
溜息を吐きながら足元を見ると、やけに汚れているのに気が付いた。
けど、ま、関係ないだろう。梗哉はそのまま純一に引き摺られ、教室に連れて行かれた。
教室到着。自分で動かない分楽が出来た。
純一も見れば疲れて無さそうだ。
梗哉が純一に引き摺られて教室に来るのは最早名物になっており、それを見て笑っている奴も結構居る。
この男もその一人だ。
?「よ、お二人さん。二人共遅刻だぞ?」
この男は工藤叶。一見女の子みたいだが、男である。
と言うか、純一も遅刻だったのか。
梗哉「あれ?純一も遅刻だったんだ。ふーん・・・・・・」
純一「な、何だよ、梗哉・・・・・・」
梗哉「べっつに〜?」
叶「何か企んでるな、絶対」
クスクスと笑いながら自分の席に座る。と言っても純一の後ろ。
隣は朝倉さんとなっており、そうそう居眠りは出来ない。
鞄をかけ、ぼ〜っとしていると、隣から声を掛けられた。
??「おはようございます、水城君」
茶色の髪の毛で、首にチョーカー、リボンを頭につけた女の子―――朝倉音夢が挨拶をして来た。
挨拶をしないでおこうか―――――と思ってやめた。
確か無視したら酷い目にあった様な記憶がある。
傷を増やしたくないので、普通に挨拶を返す。
梗哉「おはよ」
音夢「はい。それにしても、兄さん!!何で、遅刻したんですか!!?」
純一「ああ、ちょっとな・・・・・・。厄介事だ」
叶「まさか―――――」
純一「ああ」
複雑そうな顔をしている純一に叶に音夢。
梗哉は何の事か解らないし、解ろうともしない。
結果、外を見る事に意識を変えた。眠そうな瞼は今にも落ちてきそうだが。
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴り響く。二時間目が開始される時間となった。
叶は手を振って自分の席に戻り、純一と音夢も自分の席に落ち着いた。
さて、興味は無いから適当に流そうか―――――。
どこか解らない場所で"人間では無い者達"が話をしている。
一人は少し興奮気味であるが、良いとしよう。
「全く、手ぬるすぎる」
「どうします、その人間は間違いなく―――になるのでしょう?」
「そうだ。私達で消すしかあるまい」
「解りました」
一先ず話が終わる。梗哉達の知らない所で、物語が動き出そうとしていた。
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