何も特別な事が無かった一日が終わり、放課後。
今日は純一も朝倉さんも、ことりも居ない為一人で帰られる。
こう言う、幸福に浸っているときに奴は現れる。


??「水城、一緒に帰ろうではないか」


この不届き者の名前は杉並近衛。風見学園最高の変態である。


梗哉「厭だ」
杉並「態々、難しい方で言うとはな。なに、ヌーの発売日なのだ」
梗哉「ふぅ・・・」


神を呪いたい。









      参話 〜 不可抗力 〜
 








結局杉並と連れ添って歩いている。
本屋に行ってヌーを買い、その帰りである。
特に喋る事が無いので、自然に黙って歩く事になる。
と、其処で一人の女の子が駆け寄って来た。


??「あれ?杉並に水城じゃない。珍しい組み合わせね」


彼女の名は水越眞子。緑色がかかった青色の髪の毛で、美人だが凛々しい。
ボーイッシュで、"鉄拳制裁"が必殺技だ。


杉並「そうでも無いぞ。なぁ、水城」
梗哉「知らないよ」
眞子「水城も違うって言ってるじゃない。全く、今日は何をしてたのよ」
杉並「実はだな―――――」


杉並と眞子が喋り出す。その会話にさして興味の無い梗哉は前をぼーっと見ていた。
其処までは良かった。"ソレ"が出てくるまでは。


??「・・・・・・・・・」
杉並「ちっ・・・。眞子、水城。今日はもう解散と行こうか」
眞子「もとからそのつもりよ。じゃあね、二人共」


眞子は俺達から離れ、男性の方向に歩いて行く。
"ソレ"は眞子を無視し、尚も此方を睨みつけて来る。


杉並「水城。お前も帰れ」
梗哉「うん、そうさせてもらう」


二つ返事で返事をして、自分の家の方向―――男性が居る方から見て左―――に歩いて行く。
その瞬間。"ソレ"が動いた。


杉並「ちぃっ!!水城、走れ!!」
梗哉「?」
??「しゃあっ!!」


杉並の声に反応し後ろを振り向くと、剣を持った男性が襲い掛かってくるのが解り、思いきり下にしゃがみ込む。
剣は頭上を通り過ぎ、梗哉は背中に厭な汗が流れるのを感じた。
その間に杉並が梗哉と男性の間に入る。
何が何だか解っていない梗哉を尻目に、杉並は梗哉に逃げる事を促した。


杉並「さっさと逃げろ、梗哉!!」
梗哉「くっ・・・・・・」
??「逃げれると思うか?」


男性が指を鳴らしたと同時に現れる、二人の男性。
梗哉は梗哉で、変態さん達だ〜〜〜〜。と心の中で叫んでいる。
杉並は苦虫を噛み殺した様な顔になり、一度梗哉の方を見てから呪を紡いだ。


杉並「"杉並近衛"の名に於いて、天秤の守り手、大天使アークエンジェルよ力を貸せ!!


瞬間に杉並に変化が起きた。服が白い装飾服に変化し、青い光の様な物が体に纏わりついている。
杉並はその状態のまま、両手を真横に挙げ紡いだ。


杉並「現れよ


呟いた声は確かに耳に届き、両手を見てみれば何か剣みたいなものが握られていた。


杉並「具現武器―――炎の二双―――


しっかりと握り、左手が前、右手を後ろ、と言った構えをとる。
その姿は、これまでの杉並の姿からは考えられないほど神々しいものだった。


杉並「はぁっ!!」


目の前の男性に斬りかかる。
男性はその斬り掛かりに剣で対応する。杉並は二刀。相手は一刀。勝負は見えているように見えた。


??「任務を遂行せよ!!」
「「はっ!!」」
梗哉「えっ?」


男性は杉並の猛攻を剣で弾きながら、他の仲間に指示を出した。
それと同時に飛び掛ってくる男性達。
要は、狙いは梗哉だった。杉並が助けに入ろうとも入れない。
そして、梗哉が戦いをしている訳でもない。


梗哉「つっ!!」
杉並「水城!!」
??「余所見をしていて良いのか!?」
杉並「ちぃっ!!」


腕を切り裂かれた。杉並は余裕が無いのか些か押されている。


―――一体、何なんだ。俺はこんな事望んだ事は無い。
俺には関係無い。関係無いのに何故、命を狙われているんだ?


「くっくっく・・・、おい、人間。コイツがどうなっても良いのか」
杉並「っ!!」


何時の間にか首もとに剣が置かれている。
それを見た杉並は男に対する攻撃を止めた。


??「くくっ、それで良い」


杉並は抵抗せずにたこ殴りにされている。梗哉にはその行動の意味が解らなかった。
何故、自分が人質に取られた位で、杉並が殴られなきゃならない。
訳が解らない。何で杉並がそんな行動を取るのか。


梗哉「す、ぎなみ・・・!!何で・・・っ!!」
杉並「ふっ・・・、見殺しになど出来るか?」
??「そらぁっ!!」


杉並は苦しげに血を吐いて、それでも反撃をしない。
そうか。俺が人質だからいけないんだ。
なら―――――、


杉並「自殺などしたら、承知せんぞ!!」


しようとした所で杉並が叫んだ。
お見通し。なら如何しろと言うんだ。
否、する事は決まってる。


??「其処の男は"覚醒者"になるかも知れないのでな。処分させてもらう」
杉並「何!?」
梗哉「覚醒、者?」
??「そうだ。第九天使の一つの力を授かりし、"覚醒者"。それに覚醒しようとしているの
    だよ」


そんな事、知らない。
俺の体の中にある力は、今思い出しても忌まわしい、あの力だけだ。
それが天使から与えられた力なら。俺は神を殺す。


??「これ以上、覚醒者は要らない。此処で処分する」
杉並「くそっ・・・!!がはっ!!」
梗哉「杉並!!」


―――如何する少年。

如何しろっていうんだ。

―――解っているだろう。

解ってるさ。そうだよ、俺の為に他の人が傷つくのは間違ってる。

―――ならば開放しろ、ありのままに。

言われなくても、ね。


梗哉「本当、最悪だ」


どこか謳う様にして、梗哉は言った。
およそ十年振りの開放。梗哉の体が青色に包まれる。
忌々しい力の癖に、心の中は清々しかった。


梗哉「はぁ・・・、確か、"水城梗哉"の名に於いて、天秤の守り手、熾天使セラフィムよ力を貸せ―――――だったっけ?」
杉並「なっ・・・」
??「熾天使セラフィムだと!?」


杉並も男性陣も驚いている。青色の光が纏わり、存在感を強くする。
梗哉はその力に吐き気を覚え、さっさと終わらせる為に集中する。


梗哉「じゃあ、行こうかな」
「「なぁっ!?」」


梗哉が呟いた瞬間、体から衝撃波が生まれた。
円形に放たれたそれは、男達を一気に吹き飛ばす。
だが、梗哉がこの力を完璧に使える筈は無い。では何故使えるのか。
それは"覚醒者"特有の能力、"戦闘経験の移譲"である。


覚醒者は各々の第九天使の力に覚醒する。
その際に、"戦闘経験"が頭を流れるのだ。
どうやって戦えば良いのか、どうやって力を使えば良いのか。
その情報が頭に叩き込まれる。


男達はそのまま地面に顔をつけ、戦闘不能に陥っている。
梗哉は杉並をたこ殴りにした男性を睨み付けた。


??「くっ、腕がっ!!」


睨み付けただけで、男性の左腕が燃え上がる。
杉並はそれを好機と判断し、双剣で斬って掛かった。


??「糞がっ!!」
杉並「逃がさん!!」


相手は一刀、しかも片腕が使えない状況。それに対し、杉並は殴られただけ。
両腕は動くし、何より枷が無い。
男は不利と判断したのか、翼を広げ空中に浮いた。


??「まさか、覚醒したとは・・・。この場は逃げさせてもらおう」
杉並「逃げれると思っているのか?」
??「当たり前だ」


男が腕を振り下ろした瞬間、世界は真っ白になった。
視界はゼロ。その中で、声が聞こえる。


??「私の名は、シン。覚えておくが良い」


そうして、視界が開け男達は居なくなっていた。
杉並は肩で息を吐き、能力を封じる。
梗哉は勿論封じ方など知らない。よって、


梗哉「こんな力、無くなっちゃえば良いのに」
杉並「水城!!」


呟いてその場に倒れたのだった。