夢。夢を見ている。

泣いている。男の子が泣いている。

その手は血に濡れている。真っ赤。赤、垢、淦、紅。

理解出来なかった。目の前の光景を。血に濡れている世界を。

目の前に倒れている二人の人間だったモノを。

解っていた。最初から理解していた。

只、認めたくなかった。

だってこの二人は―――――。









      肆話 〜 紆余曲折うよきょくせつ 〜
 








光に眼を覚ます。目を開ければ、其処は自分の家だった。
何も変わっていない風景の中に、一つの違和感。
それは。


杉並「水城、起きたか」


杉並だった。さっさと排除したい、人物を見つめ口を開く。


梗哉「何で、杉並が居るの?」


言って後悔した。時計を見てみれば九時。
つまり無視して寝ていれば良かった。そうすれば会話もしなくて良かったのに。
その思いを知ってか知らずか、杉並は質問に答えた。


杉並「水城、お前覚えていないのか?」


額に手を当てて、質問して来る杉並。
はて、と考える―――と言うより、振り返ってみる。


確か、"ヌー"の発売日だから連れて帰られた。


梗哉「ヌー、買えたの?」
杉並「ああ、勿論だ。だが、それは質問に対する答えではないぞ」
梗哉「むぅ・・・・・・」


思考開始。その後、眞子と会って、その後に―――――。


梗哉「ああ」


思い出してポンと手を叩く。杉並は呆れた表情でこっちを見ている。
別に杉並がどんな表情居ようと知った事ではないが。


梗哉「何さ?」


それでも、じっと見られるのは厭だ。
だから問い返した。杉並は溜息を吐いてから詰め寄ってきた。


杉並「お前、命を狙われたんだぞ?なのに、何の危機感も無いんだな」
梗哉「別に・・・・・・・・・そう言えば、あの男達は?」
杉並「帰ったよ。お前が追っ払ったんだろ?」


はっとした。
そうだ。俺が追い返した。其処で、倒れたんだ。
あの忌々しい力で。


杉並「しかし、水城が"覚醒者"だったとは・・・・・・」


何故教えてくれなかったのだ?と杉並が聞いてくるが、答えは決まっている。
言いたくなかった。言えなかったんじゃない。
只、言いたくなかった。
別に蔑まれるのが厭な訳じゃない。どうせ孤独だし。
それに、教えたら関ってくる。それが厭だった。


梗哉「さぁ、何でだろうね」


ニコリ、と笑って杉並から目を逸らす。杉並が何か言いかけて、不意にドアが開いた。


純一「おい、杉並!!梗哉は無事か!?」
音夢「水城君は大丈夫ですか!?」
ことり「水城君、大丈夫!?」


五月蝿いのが三人入って来た。
しかも、誰の断りも無しに。
杉並は当然の如く驚いて無いし、梗哉も関係無い、と言った感じで無視している。


純一「当然の様に無視するな、梗哉」
音夢「そうですよ」
ことり「二人の言うとおりだよ、水城君!!」
梗哉「ああ、来てたの、三人共」


今気付いたかの如く反応する梗哉。
その態度に三人は詰め寄ってくるが、軽く流す。
訊くだけ面倒臭い。杉並の含み笑いと言うか不敵な笑いが気に食わないが。
どうせ、杉並の事だ。この三人に電話でもしたんだろう。


純一「で、杉並。電話で言ってた事は本当か?」
杉並「うむ。水城は確かに"覚醒者"だ」
ことり「えっ!?そうなんですか!?」
音夢「初耳ですよ、それは」
梗哉「へぇ〜〜〜」


お前の事だろうが!!と叫ぶ二人の人間は放って置こう。
"覚醒者"なんて言われても訳が解らない。
今日みたいな事が起こるなら、それこそ御免だ。


純一「で、何だ?」
杉並「上位三対、第一天使"熾天使セラフィム"だ」
音夢「それは・・・・・・」
ことり「本当ですか?」


三人共驚いている。杉並はうむ、と頷きこっちを見てくる。
その視線につられて三人が眼を向けてくる。


純一「そうか。とうとう第一天使が参入したか」
音夢「それにしても驚きですね。"覚醒者"はお互いに判る筈なのに」
ことり「それはそうですよね」
純一「んな事はどうでも良いだろ。これで戦力も上がった事だし―――――」
梗哉「何、期待してるの。純一」


軽く睨み付ける梗哉。その眼を見て、少しうろたえる純一。
何時も、梗哉は自分の感情をあまり表に出さない。
しかし、今回。目線に感情を出した梗哉を前にして純一は黙り込んだ。


梗哉「この力が何なのか知らないけど、何で俺が戦力になるんだ」
純一「だって、お前・・・・・・」
梗哉「それが宿命だから。とか言わないでよ?俺には関係無い」
ことり「水城君・・・・・・」


梗哉の物言いに、三人の表情は何とも言えない様になる。
梗哉からすれば良い迷惑だ。
訳の解らない事に巻き込まれ、日常を蹂躙されていく。


まぁ、尤も。あまり日常を大事にしているつもりも無いんだが。


梗哉「俺は、こんな戦いに参加なんかしない。厭なんだ。この力を振るう事が」


大事な物、関係無い物を巻き込んでしまうから。
この力は悪魔の権化。誰が何と言おうと、間違い無く破壊の力。
最悪な、邪悪な力なんだから。


杉並「だが、判っているんだろう、水城」
梗哉「何が?」
杉並「その宿命から逃げられない、と言う事は」
梗哉「知らないよ、そんな事」


そういってそっぽを向く。
部屋には重たい空気が流れ、誰も言葉を発さない。
ことりは顔を俯かせているし、音夢も同じだ。
純一は視線を送ってくるし、杉並は眼を瞑っている。


そう言えば、あの時ボコボコにされていた杉並は大丈夫なのだろうか。


梗哉「そう言えば、杉並。怪我は大丈夫なの?」
杉並「ああ、問題無い。あの程度の怪我なら直ぐに回復する」
純一「そう言えば、お前ら戦ったんだってな」
ことり「本当、杉並君から電話を貰ったときはビックリしたよ」
音夢「そうですね。行き成り、『水城が狙われた!!』ですもん」


空気は払拭され、会話が行きかう。
梗哉はそれを見て溜息を吐き、時計を見た。
十時。起きてから時計を見たのが九時だから、一時間経っていた。
そう言えば、晩御飯を食べてなかったけど、まぁ良いか。


ことり「そう言えば、水城君は晩御飯食べました?」
杉並「おお、白河嬢。そう言えば俺と水城は食べていないのだ」
ことり「やっぱりそうでしたか。それじゃあ、台所借りるね?」


ことりは鼻歌が聞こえて来そうな位の勢いで台所に向かって行った。
それにしても、やっぱりお節介が揃ってて、少し息苦しい。
ことりが料理を作っている間、純一と音夢は杉並と喋っている。
梗哉はベッドに横になり、眼を瞑る。


変な男達に襲われた自分。
杉並と男達が言っていた"覚醒者"と言う単語。
自分の能力。


解らないことばかりだ。
でもきっと。無関係では居られなくなる。
それがたまらなく厭だった。だから、出来る限り抵抗してやる。


ことり「出来ましたよ〜〜〜」


良い匂いが漂ってきた。料理が出来たんだろう。
結構お腹が空いていたのだろう、純一と音夢は置かれた盆から食器を取った。
杉並は『かたじけない』とか言ってるし。


純一「おい、梗哉。お前も食べろよ」
梗哉「うん」


思考を止め、食器を受け取る。
成る程、美味しそうだ。自分も料理はするが、ことりには敵わないだろう。
思いながら箸をつける。
本当に美味い。


音夢「そうです、水城君。"聖なる騎士パラディン"の人達に会ってもらえませんか?」
梗哉「"聖なる騎士パラディン"?」
ことり「あ、それ良いね。ね、水城君。其処で話聞いてみてから、決めてよ」
純一「そうだな。大事な戦力だし」


よし、決定。と純一が決める。
何時もの事だから気にしないが、自分に決定権と言う物が存在していない。
何故だろうか。


梗哉「はぁ・・・・・・」


梗哉の溜息なんて無かった様に、箸を勧める四人。
こうして、梗哉は対峙する事になる。

神の意思を継ぐもの、"聖なる騎士パラディン"に―――――。