|
山奥にある、建物。
そこに"聖なる騎士"のアジトがあった。
覚醒者なんて、現代に於いてそんな者は居ないと言われている物だ。
山奥に有るのも、その為の措置だろう。
純一「ここだ」
ことり「入ってください、水城君」
梗哉「はぁ・・・・・・」
何回目か解らない溜息を吐いて中に入る。中には一人の男が椅子に座っていた。
伍話 〜 本末転倒 〜
??「彼が、水城梗哉君か」
杉並「はい、そうです」
??「ふむ・・・・・・・・・」
ジロリ、と此方を見てくる。その品評している目が気に食わない。
それでも関係ないが。その視線を真正面から受けても気にした素振りは無い。
一通り見終わると、その男が口を開いた。
??「ようこそ"聖なる騎士"へ。私は羽淵 静樹と言う者だ。私達は君を歓迎する」
大層に手を広げて歓迎の意をアピールする。
梗哉はさも、興味の無い風に半目で見る。
純一達は静樹に説明するように促した。
静樹「ふむ。その前に言っておこう。私も覚醒者でね。第二天使"智天使"に目覚めている のだよ」
純一「俺は第三天使"座天使"に覚醒してる」
音夢「私は静樹さんと同じ、第二天使"智天使"に覚醒しています」
ことり「私は第五天使"力天使"に覚醒しています」
杉並「そして俺は第八天使"大天使"に覚醒している。静樹さんは俺達のリーダーだ」
自己紹介まがいの事が終わる。杉並は知っていたし、杉並が純一達に電話している所で純一達もそうだと薄々気付いていた。
別にどうでも良い。というより、覚醒者と言うのは何なのか。
静樹「梗哉君。君は"熾天使"に覚醒していると訊いたが」
杉並「はい。彼は"熾天使"に覚醒しています」
静樹「ふむ。確かに波動を感じる。確かに覚醒しているのだろう。これで我々の戦力も 大幅にアップする!!」
梗哉「・・・・・・・・・・・・」
だから、何を期待しているんだろう。
自分は何も言っていない。なのに、何故此処まで話を進めていくのか。
何も解らない事だらけなのに、一体何をしろと言うのか。
純一「静樹さん。梗哉に覚醒者は何なのかを教えて欲しいんですが・・・・・・」
純一が静樹に説明するよう促す。静樹は大層に頷き、口を開いた。
静樹「覚醒者と言うのは"神に分け与えられた"力を行使する者だよ」
梗哉「神に・・・・・・・分け与えられた?」
静樹「その通り。"神"に遣わされたのだ、私達は。"魔者"達を屠る者として」
神、神、神。何が言い足りないのか、"神"の部分を強調して話す静樹。
それを前にして、梗哉の眼は呆れから侮蔑へと変わっていく。
静樹「君にも備わっているのだよ、神の力が!!」
梗哉「・・・・・・るな」
純一「ん?如何した、梗哉」
梗哉「ふざけるなって言ってるんだよ、その人に」
ことり「水城君!?」
最早、梗哉はその呆れた口調と怒気を隠さないで居た。
それでも、純一達は梗哉が怒った所等見た事が無かった。
どんな事でも無関心主義だった彼は、怒る前に感心を示さなかった。
ならどうやって怒る事が出来るだろう。
何にせよ、彼らは初見だった。
静樹「何がふざけている?」
梗哉「全て、だよ。何が"神から分け与えられた"だ。この世に神が居るなら―――――」
あんな事には、ならなかった筈なのに。
歯軋りをして、顔を俯かせる。数秒経ってから梗哉は目線を上げた。
梗哉「あんたらは俺の参戦を期待しているようだけど、絶対に参加しない」
杉並「それは何故だ、梗哉」
梗哉「・・・・・・関係、無いだろ」
純一「関係無い事は無いだろ!!同じ覚醒者なんだぞ?」
梗哉「それでも関係無い。俺はこんな力欲しくなかった。只平凡に暮らしたかっただけだ」
苦虫を噛み潰した様な表情を作り、その瞬間には無表情に戻っていた。
梗哉「これが、こんな力が"神"に授けられた力?これが無ければ、俺は―――――」
音夢「無ければ、何ですか?」
梗哉「―――――何でも無い。それに関係無いだろ?俺はこの力を使いたくない」
静樹「そうかね。だが判っているんじゃないか?もう、後戻りは出来ない事に」
梗哉「・・・・・・・・・・・・」
だから、そんな事は判ってる。
それでも抵抗するって決めた。もとの無関心な生活を取り戻してやるって。
その為にはこんな能力は要らないし、こいつらと手を組む必要は無い。
梗哉「・・・・・・もう俺に関るな、二度と」
静樹「それは無理だ。君が覚醒者である限り」
梗哉「クスクス。確かにそうだけど、その力を如何使うか何て、誰にも解らないよ?」
笑いながら、その建物を後にする。
静樹は黙ったまま梗哉を見送り、純一達は只困惑していた。
梗哉の意味深な発言に、挑発するかの様な静樹の対応。
もやもやした物が残った物の、純一達は取り敢えず梗哉の後を追った。
建物には静樹だけが残り、その後闇に包まれた。
最悪。最悪。最悪。気分は最低、劣悪。
本当に"神"が与えた力であると信じて疑っていない、さっきの奴の態度を見ていると、吐き気がしてくる。
純一「おいっ、梗哉!!」
呼ばれても振り返らず、只溜息を吐く。
どうやら純一達全員が自分を追って来たらしい。
何とも律儀な事だ。折角一人になれると思ったのに。
ことり「水城君。最後の言葉はどう言う意味ですか?」
梗哉「別に。言葉通りだよ」
音夢「何であんな事言ったんです・・・・・」
梗哉「・・・・・・・・・」
無視をして、さっさと歩いて行く。一人として梗哉の思惑が図れない中、杉並が口を開いた。
杉並「水城よ。まさか"魔者"の仲間になるなんて、考えて無いだろうな」
杉並の言葉に梗哉以外の全員が注目する。
杉並は梗哉を見ており、今度は梗哉の下に目線が集まった。
視線の中、梗哉はウンザリした風に振り向く。
梗哉「さぁね。どうなるか、なんか誰にも解らないだろ?」
純一「梗哉・・・・・・っ!!」
梗哉「好い加減関らないで欲しいよ。自分達も"聖なる騎士"なんだろ?」
その言葉に言葉を失う四人。
判っている事だ。梗哉がこういう事を言う人間なのは。
それは初めて会った時に痛感した筈なのに。
梗哉「じゃあね」
何故こんなに胸が痛くなるのか。
その疑問に応えられる者は、四人の中に一人も居なかった。
家に着き、乱暴にドアを開ける。
なんだか冷めた。時計を見ると十一時を回っており、寝る時間になっている。
だがいざこざがあった為に、風呂に入っていない。
梗哉「入ろうかな・・・・・・」
呟いて、浴室に向かう。
基本的に浴槽に湯を溜めるのだが、今日はそんな気にならない。
思いっきり蛇口を捻ると、シャワーが噴出した。
それを、頭からかぶる。晴れ晴れしない気分。
最悪。"神"と言われれば言われるほど、彼の心は深く傷つく。
神。憎い存在。
神。呪いの対象。
神。全ての罪の具現。
梗哉「御免なさい・・・・・・・・・」
誰に対する、謝罪か。それは自分が良く知っている。
殺してしまった人達に。
死んで詫びないといけないのに。
それでも生きている自分。
だから、殺してしまった人達に謝る。
その謝罪が届かなかったとしても。
|
|