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船に乗り早三時間。
未だに、サーカス国の片鱗すら見えず、彼は律儀に落ち込んでいた。
?「と言うか、何でこんなに遠いんだろうな、サーカスは」
未だ見えぬサーカス国方向の空を仰ぎつつ、溜息を一つ吐いた。しかし、そんな事をしたとして、船の速度は上がらない。最初からそんな事は判っているので、また溜息を吐いた。
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―――この世の陽炎―――
/1 ≪上陸、サーカス国!!≫
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しかし、今月―――十二月―――は寒いと言ったら寒い時期に外に出ているのだが、何故か熱い。何故だか知らないが、此処だけ熱いような。
それもその筈、彼の周りに居る女性は彼の風に靡く銀色の髪、そして持ち得る容姿に見惚れている。
身長は178cmでモデルの様な体格をしているので余計に目を引くのだ。雰囲気もまた凄まじい。
鋭い刀と言う面もあれば、温和な空気も醸し出している。それが相成って、皆の眼を引いているのだ。
?「変に熱いよな。けど―――――ま、良いか」
ぼやき、海面に目をやる。その間も彼は女性の眼にさらされていた。
後日、彼はこう語っている。
「とても十二月と思えないほど生温かった」、と。
純一SIDE――――
かったりい・・・・・・。
授業が終わり放課後だが、時間は昼。今日は早く終わったのだ。
なので、少年―――朝倉純一は妹の朝倉音夢、水越眞子と一緒に帰宅中だ。
ここ風見市は重要都市の一つであり、"異能者養成学校≪風見学園≫"があり、毎日桜が咲いている。
つまり、毎日花見が出来る。だが純一は情緒も無く
「掃除がかったるそうだな」
と躊躇も無くばっさりと切った。つまり、そういう男なのだ。
容姿はかなりいいのだが。
音夢「今日は早く終わりましたね」
眞子「そうね。ことりと朝倉が頑張ったからね」
純一「当たり前だ。アレだけ頑張って早く終わらなかったら怒るぞ」
今日は学園での課外授業で、魔臣―――魔―――を殲滅すると言う任務だったのだ。
魔臣と言うのは違いはあるが、人に脅威を与える者だ。
それの殲滅で今日は中級魔臣を殲滅した。
純一のチームは音夢と眞子が居り、早く終わればそのチームは早く終われるのだ。
純一達のチームは早く終わったので早く帰ってきたのだ。
閑話休題。
そろそろ寮に行き当たる。
眞子と朝倉兄妹は寮に住んでいる。したがってこうやって一緒に帰る事も珍しくない。
後もうちょっとで着く。そう思ったその時。
魔臣の気配を感じた。しかも上級位のものである。
純一「二人共・・・・・・」
眞子「ええ、判ってるわ。行きましょう」
音夢「この気配は上級魔臣ですか・・・・・・」
三人はその場で顔を見合わせ、その場から走り去ったのだった。
少年SIDE―――――
サーカス国に着いた少年は風見市を目指していた。
丸腰で歩いている様子は少し危なさそうだが、まぁ大丈夫だろう、と少年は思っている。
生暖かい温度から逃れられたので、結構顔は爽やかである。
?「ん?風見公園?―――――おお、着いたのか」
やっと着いた目的地。彼はその公園にあるベンチに腰を掛けた。
一言で言うなら疲れた。と言う訳である。
?「どれ位休憩していようかな・・・・・・。"桜花寮"にも行かないといけないし」
呟いて上を見上げると、桜の花が丁度目の前に落ちて来た。
ぱっと、指で桜の花を掴む。
この風見市は毎日桜が咲き誇っている事で有名である。
まぁ、この街に入って不思議な違和感を感じているから、そう言う事なのだろうと思うが。
?「ま、早く寮に行かないといけないからそろそろ―――――片付けるか」
そう言って、穏やかな目のまま空を見上げる。其処から降りてくる下級魔臣"ウィングバード"。
少年はそのままウィングバードを見据えたまま、呟いた。
?「―――水弾―――」
下級の一番弱い水の魔術。ウィングバードは行き成りの魔術に驚いた物の、下級魔術と言う事を知ってたか知らずか、そのまま突っ込んで来た。
それが間違いだったのだが。
普通下級魔術では一撃で魔臣を殺す事は出来ない。
だが。
ギャアアアアア!!
ウィングバードは一撃で絶命した。少年が出した水弾の威力を侮る無かれ。
その威力は中級の中位に相当する。
魔力量は半端なく、最早可笑しい位である。その魔力を込めて撃ったのだから当たり前だった。
?「さて、次は・・・・・・・・・」
同じ魔術だけで少年はウィングバードを屠っていく。
そうする事一分。遂に元凶が現れた。
???「貴様、何者だ」
そう言って現れた上級魔臣。名は"セルシム"だったか。
鳥族の中でも上位に位置するセルシム。形は人間の形だが、戦闘時になると翼が生える。
そのセルシムが少年に向かって質問した。
?「俺か?俺は桜風雫。ランクはD−だ」
穏やかな顔の状態で少年は言い放った。
だがセルシムは驚愕の表情で少年を見ている。
セルシム「何?D−だと?馬鹿な。D−が一撃で我が家臣達を屠れる訳は無かろう」
セルシムは驚愕を隠さず言った。
D−ランクは最初に異能者として認められた駆け出しの者だ。
その人間がまさか一撃で下級魔臣を倒せる訳は無い、とセルシムはそう思ったのだ。
しかし少年は別に何でも無い様に興味を向けずに言う。
雫「やめてくれよ。仮にも上級魔臣だろ?まさか見た目で判断したのか?」
馬鹿にした様な言い方で相手を挑発する。
その挑発にのったのかセルシムは怒りを顕にした。
セルシム「ふんっ、ほざくな貴様。直ぐに終わらせてやろう」
雫「そうだな。俺も直ぐに寮に行きたいからな」
瞬間、セルシムの体が消える。
雫はやはり笑みを携えたまま、その場に立ち尽くしていた。
純一SIDE―――――
純一達三人は魔力を感じた場所―――"桜公園"―――に向かっていた。
感じた魔力は上級位。上級位はA〜SSランクに匹敵する実力を持っている。
下級はD〜Bランク。中級はB〜Aランクに匹敵する。
閑話休題。
で、純一はS+ランク、音夢はS−、眞子はB+ランクを持っている。
勝てない?―――――そんな事は無い。
そんな事を考えて走っていた純一だが、桜公園に着くやいなや、急に立ち止まった。
純一「やっと着いた―――――誰だ?」
音夢「ちょっと、兄さん!!行き成り止まらないで下さい!!」
眞子「そうよ、朝倉!!全く・・・・・・、で、如何したの?」
純一「あれ・・・・・・」
純一が指す方を見ると、其処には上級位の魔臣と戦っている者が居た。
銀髪が良く栄える、男か女。後姿からはそれぐらいしか判らない。
武器は無く、素手で上級位と戦っている。
しかし、結構押されているのだ。純一達は思考を掻き消し、疾走し桜公園に入った。
雫SIDE―――――
セルシムの姿を見失い、しかし雫は落ち着いていた。
見失ったのは一瞬。それ以降雫の目はセルシムの速さに着いて行っている。
セルシム「はっ!!」
鋭い一突き。それは背後からだった。それを身を捻ってかわし、通り過ぎていくセルシムを見る。
身体は形態を変え、物々しい翼と、物々しい爪が着いている。そんなんで一突き浴びれば命が無いだろう。
雫「流石はセルシムか。中々面白い―――――っと!!」
セルシム「死ねい!!」
連続で突く。薙ぐ。殴る。蹴る。その連続で繰り出される攻撃は、確実に死を帯びている。
しかし、それを紙一重でかわし切っている。
セルシムの速度はまた速くなるが、それでも雫はかわしている。
その事にセルシムは動揺を隠せなかった。
セルシム「何なんだ、貴様は!!何故私の攻撃が悉く当たらんのだ!!」
雫「さぁ?教えて欲しいなら力ずくで―――――おっと?」
??「加勢します!!」
??「行くわよ!!」
??「かったりいが片付けてやる」
突如の乱入により、雫は呆気に取られ、セルシムはその場から一気にバックステップで距離を取った。
男一人に女二人。その三人の攻撃は虚しく空を切った。
セルシムは狂眼を三人に向ける。殺気を帯びているが男が殺気を放出しているので、あまり効果は無い。
セルシム「そうか、邪魔をするか。人間共」
??「当たり前でしょう」
??「確かにな。さて、終わらせるぞ」
セルシム「面白い。なら終わらせ――――――っ!!がぁぁっぁぁぁああ!!」
水の奔流がセルシムを直撃する。その奔流が来た方向を三人が面白い位のスピードで見る。
そこには雫がいた。掌をセルシムに向けながら苦笑している。
雫「だって、隙が有りすぎたから・・・・・・」
苦笑いしながら、雫は上級魔臣に近付いていく。三人が何か言っているが無視。
セルシムは仰向けに寝転んでいる。最早虫の息である。
雫はそれを見下ろし、やはり微笑んでいる。
雫「本当に上級魔臣なのかねぇ・・・・・・。ま、ここは三人の加勢に感謝しよう」
ポツリと呟き、上級魔臣に止めを刺す。
水弾。
それを多数用意し、セルシムに放つ。それでセルシムは完全に沈黙した。
雫は溜息を吐いて、三人のもとに歩いて行く。
雫「加勢してくれて、有難うございました」
微笑みながら礼を言う雫。それに当てられ二人の女の子が頬を赤らめているが雫は気付かない。
男の方も笑みを浮かべながら雫に礼を言った。
??「いや、貴方が上級魔臣を引き止めてくれなかったら、凄い事になってました。有難うございました」
??「そ、そうですよ。有難うございました」
??「それで、えっと。名前は何て言うの?」
雫「ああ、俺の名前は桜風雫。よろしくな」
軽い微笑みを携えたまま雫は自己紹介をした。
その自己紹介に倣って、三人も自己紹介を始めた。
??「俺は朝倉純一だ。一応風見学園の五年次だな」
??「私は朝倉音夢です。純一は兄で、兄と同じ学園に通っています」
??「私は水越眞子。この二人と同じ学園に通ってるわ」
三人は同じ様な事を言って自己紹介を終わらせた。
風見学園と言うのは"異能者養成学校"と呼ばれる機関の事で、
KANON国、バーベナ国、サーカス国、ブルーム国の四つに存在しており、一年次から六年次まである学園だ。
また"異能者"と言うのは一般人以外の者全員を言う。
魔術が使える者、能力に覚醒している者。そして二つ扱える者の事を言う。
その他魔術も能力も使えないが武術に長けている者の事は一般人と変わらない扱いである。
閑話休題。
学園生となると、中々強いだろう。実戦をどれだけやってるか分からないが、それでも他の同年代の人間より強力だろう。
純一「そう言えば、雫は何歳なんだ?」
雫「俺か?俺は十七歳だが?」
音夢「ええ?そうなんですか?」
雫「ん?そこ驚くところか?」
雫は少し怪訝そうな顔で音夢を見る。
音夢はバツが悪そうな表情で苦笑している。見れば眞子も驚いているが。
もしかして、俺は其処まで老けて見えるのだろうか。
純一「そうか、俺等と同じ歳なのか。それに男・・・・・・だよな?」
雫「ちょっと待て。男以外に見えるのか?」
眞子「初め見たとき、女の子かと思ったわよ」
音夢「それに凄く大人っぽく見えるので・・・・・・」
身長も高いし。と音夢は呟く。つまり、実年齢より歳を取って見えるらしい。良い事なのか悪い事なのか分からないが。
雫は少し苦笑いをしてからそろそろ、と言った感じで足を目的地に向ける。
雫「それじゃあ、俺はこの辺で」
音夢「え?どこか行くんですか?」
雫「ああ。行く所があってな。そろそろ行かないと不味いんだ」
眞子「それって何処よ」
可笑しい位に話題に突っ込んで来る音夢と眞子。
雫は一瞬思案した。だが、直ぐ後に思考をやめて、口を開いた。
雫「"桜花寮"って場所なんだが」
純一「"桜花寮"?なら俺達に着いてくるか?」
雫「え?」
音夢「私達が住んでいる所も"桜花寮"なんですよ」
眞子「一緒に着いて来なさいよ」
心なしか眞子が嬉しそうだが、それは放っておこう。
雫は二つ返事で答え、純一達に着いていく事に決めた。
純一は音夢と眞子は雫と肩を並べて、桜公園から歩いていくのだった。
しかし、ここ風見は何故ここまで桜が舞っているのだろうか。
自分も色々な場所に依頼などで行っているが、それでも桜が毎日咲いている所なんて聞いた事が無い。
"KANON"でも結構驚いたのだが、あそこは雪が毎日降っている。
そう考えれば、風見も有りかなぁと思ってみたり。
音夢「着きましたよ、雫君」
雫「此処が・・・・・・」
其処にあったのはかなり前衛的な寮。周りは城壁で囲まれている。
かなりの大きさを誇る寮は部屋数を教えて欲しい程の物だった。
純一「それじゃあ、暦さん呼んで来るから、ここで待っててくれ」
雫の返事を待たずして、純一は寮の中に入っていった。
自然此処には雫と音夢だけになったのだが、本当に初めて会ったのかと思う位、二人の話は弾んだ。
話の中で、雫は一つの事を考えていたのだが、ちゃんと音夢の話を聞いて律儀に返していた。
そうして五分。ようやく純一が暦さんを連れて戻って来た。
純一「待たせたな。此方が・・・・・・」
暦「ようやく来たね。全く、遅いよ雫」
雫「まぁ、そう言うなよ暦。桜公園で上級魔臣が出てきたんだからさ」
音夢「え!?」 純一「なっ!?」 眞子「へっ!?」
三人の驚きはおいといて、雫と暦の話は続く。
色々喋っている所で純一が口を挟んできた。
純一「えっと、何で其処まで―――――」
暦「『仲がいいのか』か?朝倉」
雫「前に依頼を受けた時に、一緒に依頼をこなした事があってな。それで仲が良くなったんだ」
雫は純一に向きかえり、簡潔にそう言った。
音夢と眞子は未だおいて行かれており、少しばかり呆気に取られている。
そんなこんなで、五分も経っただろうか。流石に外に居るのもあれなので、寮に入る事になった。
暦「雫の部屋は朝倉の部屋の隣だ。朝倉、案内してやってくれ」
純一「了解です」
暦「夕食の時間になったら呼ぶから」
雫「判った。じゃあ、また後でな。暦、音夢、眞子」
三人に手を振ってから純一に着いて行く。
純一は凄い物を見るような目でこっちを見てから、溜息を吐き、階段を上っていった。
雫もそれに置いて行かれない様に純一に着いて行った。
二階を上がり直ぐの部屋の隣に"桜風雫"と書かれた部屋がある。
そこが雫の部屋であろう事が簡単に判った。右隣は朝倉純一。左隣はことりとだけ書いてある。
純一「此処が雫の部屋だ。右隣が俺の部屋だな」
雫「右は?」
純一「右はことりだ」
雫「ことりと言うと、白河ことり?」
純一「あ、ああ」
ほう、と呟いてからその部屋をノックする。その行動に呆気に取られ、純一は固まっている。
???「はい、どなたですか?」
部屋から聞こえて来る声は確かに、二年前暦と一緒に依頼に来ていた少女の物に相違なかった。
雫は静かに、しかし確実に聞こえる様な声で言った。
『俺だ。雫だよ、ことり。』
と―――――。
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