雫「ことりと言うと、白河ことり?」
純一「あ、ああ」


ほう、と呟いてからその部屋をノックする。その行動に呆気に取られ、純一は固まっている。


???「はい、どなたですか?」


部屋から聞こえて来る声は確かに、二年前暦と一緒に依頼に来ていた少女の物に相違なかった。
雫は静かに、しかし確実に聞こえる様な声で言った。




『俺だ。雫だよ、ことり。』




と―――――。





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―――この世の陽炎―――


/2  ≪出会いと再開と≫    
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え?と蚊が鳴く位小さな声が聞こえたと思うと、中でどたばたと聞こえて来た。
雫は笑いを噛み殺しながら、純一は不思議そうな顔をしてことりが出てくるのを待っていた。
三分程経ち、ことりがドアを開け恐る恐る顔を出した。


ことり「し、雫君ですか・・・・・・?」
雫「ああ、久し振りだな、ことり」
ことり「雫君!!」


確認が済んだと同時に突っ込んで来ることり。
それをかわす素振りなど一つもなしに、受け止める雫。
純一は更に呆気に取られている。最早収集が付かない勢いの顔だ。
が、それも束の間。普通の顔に戻して、口を開いた。


純一「えっと、今いち事態が掴めないんだが」
雫「ああ。二年前に暦と一緒に依頼を受けたんだが、ことりも一緒に来ててな。そこで知り合ったんだ」
ことり「あの時の雫君凄かったなぁ・・・・・・」


うっとりとした感じで、ことりは天井を見上げている。
雫は苦笑いをし、純一にいたっては最早ハニワとなっている。雫はことりにそっと耳打ちをし、自分の部屋に引っ込んだ。 純一はその数瞬後、首を傾げて自分の部屋に戻って行った。ことりは耳打ちされた言葉を耳の中で繰り返しながら部屋に戻った。


雫「あの時の事言われたら困るからな。今回は確かに依頼で来てる訳だし・・・・・・」


部屋に入り荷物を置く。部屋は綺麗で尚且つ大きい。
正直寮でこんなに大きいのは、KANON国の寮位だろうか。
雫はこの国に来る前はKANON国に居た。と言っても自分の出身地は知らない。
その部分と七年前の記憶の一部がすっぽり抜けているのだ。


雫「さて、如何しようか―――――」


コンコン


言い切るより早く、ドアがノックされた。
椅子から立ち、ドアに向かった。其処には一人の少女が立っていた。


ことり「入って良いっすか?」


ああ、と頷き部屋に招きいれた。荷物は未だ片付けていないが別に良いだろう。
ことりはお邪魔します、と律儀に礼をしてから中に入ってきた。


雫「如何した、ことり」
ことり「えっと、何であの時の事言ってはいけないのかな、と思って」
雫「それはな―――――今、ことりは何ランクになった?」
ことり「え?えぇっと、S−っすよ」


人差し指を顎にあて、天井を仰ぐ感じで口を開くことり。
二年前がA−だったから、中々成長しているらしい。
雫はへぇ〜〜っと言った感じでことりを見る。その視線に気付いたことりは少し頬を赤らめながら話を促した。


ことり「で、そ、それが何ですか?」
雫「で、今の俺のランクはD−なんだ」
ことり「・・・・・・・え?」
雫「いや、だからD−なんだって」


雫の言った言葉を一生懸命吟味していることり。
そうしてからたっぷり十秒。ことりは大声を張り上げた。


ことり「ええっ!?嘘ですよね!?確かあの時は―――――」
雫「ストップ!!落ち着け。つまりそう言う訳だ」
ことり「そう言う訳ってどう言う訳ですか?」
雫「この国にも依頼で来てるんだ。だから二年前の事は誰にも言わないで欲しい」


その理由も簡潔に述べる雫。それを納得した様にことりが頷く。
ことりは依頼の事に関しても聞いて来たが、流石にそれを教える訳には行かないので黙っておいた。
それから一時間程談笑し、ことりは自分の部屋に戻っていった。
雫はこの国に来た事は何度かあったが風見に来た事が無かったので、風見市を見て回る事にした。




三時過ぎ、やはり肌寒く感じる中、雫は商店街を歩いていた。
武器や装飾品等が手広く売られている。それらを少し見て回った後、彼は一つの言葉を聞いた。


『そう言えば、最近通り魔が出てるんだよね』


その言葉に反応し雫はばっと振り向いた。しかし、話していた女の子達は早足で歩いていた為、その話を聞ける事は出来なかった。
歩きながら耳を澄ましていると、やはりその様な言葉を耳にする。


"通り魔"、"殺人鬼"、"狂った人"、etc・・・・・・。


この街も物騒だな、と思いつつも、依頼の内容と照らし合わせる。


『風見市に起こる不吉な影を取り除く』


これが依頼内容だ。なら"通り魔"とかも見過ごす訳には行かない。
心の中でこの国に於ける依頼、最初の一歩だな。と意気込み雫は寮に戻って行った。




夕食の時間になり、雫は純一と共に食堂に下りて行った。
食堂には既に寮の住人が居り、席に座って料理が出てくるのを待っている。


暦「適当に座りな」


席を流して見ると、音夢の隣が一つ、ことりの隣が一つ空いている。
純一はさっと、音夢の方に歩いて行く。雫はそれを見届けた後、ことりの隣に腰を下ろした。


暦「それじゃあ、朝倉」
純一「雫。ようこそ桜花寮へ!!」
色々「ようこそ!!」


純一の掛け声により皆が歓迎の意を示してくれた。




やはり最初は自己紹介なのだろう、皆が一斉に雫の方を注目し、純一が目で促してきた。
雫はその視線の意味を読み取り、すっ、とその場に立ち上がる。


雫「初めまして、桜風雫です。一応風見学園には五年次で入る事になってます。よろしくお願いします」


うやうやしく頭を下げ、笑顔で締める。
やはりと言おうか、皆が頬を赤らめている。そんな事気付く雫では無いが。
じゃあ、初めは俺が自己紹介するかな。と純一が席を立つ。


純一「改めて、俺は朝倉純一だ。言ったと思うが五年次。よろしくな」


次は音夢な。と言って席に座る。音夢と純一はかなり仲が良いらしい。
兄妹ならそれも当然だろうが。


音夢「私も改めまして、朝倉音夢です。私も五年次です。よろしくお願いしますね、雫君」


ぺこり、と頭を下げ自己紹介が終わる。次に立ったのは、オレンジ色の髪の毛をした女の子。


??「美春は天枷美春と言います。美春は四年次です。よろしくお願いします、雫先輩!!」


元気一杯の自己紹介が終わる。次は金髪らしき髪の毛の美・・・・・・少女?


??「俺は工藤叶。一応五年次だ。よろしくな雫」
雫「あ、ああ。なぁ、工藤。お前って男か?」
叶「当たり前だろ!?そんな事言ったらお前はどうなんだよ」
雫「あ〜、確かにな。悪かったな不躾な質問で」


頭を下げ謝罪する。それを見て叶は少し顔を紅くするが、雫は頭を下げているので判りはしない。
結局叶の許しを得て雫が頭を上げた時には叶の顔も普通に戻っていた。


眞子「私も改めて、水越眞子よ。五年次に通ってるわ。よろしくね」
?「初めまして〜〜、眞子ちゃんの姉の水越萌です〜〜〜、よろしくお願いしますね〜〜〜」


随分間延びのした話し方をする人だ。
ぽけぽけとしているその姿は、見ていればかなり和むが。
そうしている内に、行き成り寝だす萌。


眞子「もう、お姉ちゃん!!自己紹介の時に寝ちゃ駄目でしょ!!」
萌「ふぁぁ〜〜〜〜〜〜、ふぁ」
雫「やるな・・・・・・」


本気で寝ているらしい。しかも立ったままである。雫もかなりの人達を見てきたが、それでも立ったまま寝るなんて初めて見たかもしれない。


萌「六年次に通ってます〜〜〜〜〜、くぅ・・・・・・」


一応しっかりと自己紹介を終え、萌が就寝モードに入った。
眞子は溜息を吐いているし、他の皆は苦笑している。最早乾ききった笑みである。


???「私は佐伯美奈子と言います。五年次に通ってます。よろしくお願いしますね」
??「私は森川智香と言います。同じく五年次に通ってます。よろしくね」
ことり「改めまして、私は白河ことりです。五年次に通ってます。よろしくお願いします」


三人が矢次に自己紹介を終える。それにしても佐伯美奈子とは、佐伯章の妹ではなかっただろうか。
全く、この世の中も中々面白い事だらけである。


純一「自己紹介も終わった事だし、食べるか」


料理をつつき始める純一の後を追う様に、皆が食事に手を出し始める。
雫もそれに倣い食事を始めた。それから行われる質問地獄はやはり、雫の体力なり精神力を削っていったのだった。




夕食も終わりに近付き、質問も底をついて来た所で美春が口を開いた。


美春「そう言えば、雫先輩の武器とランクって何なんですか?」
雫「ん?武器とランク?」


尋ね返すと美春が首を縦に振る。
確かに言って無かった様な。ことりに言ったには言ったが、他の人達は知らないだろう。


雫「短刀を使ってる。ランクはD−だ」


そうなんですか!?と美春が大きな声を上げる。
それもその筈、D−ランクと言ったのだからそれも当たり前だった。
此処でランクについて講義しておこう。


ランクと言うのは"異能者"に付けられる階級の事で、
D、C、B、A、S、SS、SSSの七種類あるのだが、D〜Sランクは新参者に−、上のランクに近い者には+が付けられる。十七個のランクがあるのだ。
Aランク以上の者は、通り名を与えられる。
その他特殊ランクも有るが、それは追々説明する事にしよう。



閑話休題。



雫「そうだよ。で、皆は?」


雫が全員を促す。他の皆は口々に自分のランクと武器を説明している。結局下のようなものだ。


朝倉純一 ランク:S+ 武器:刀 通り名:想像の創造者サザン・クリエイター
朝倉音夢 ランク:S− 武器:小刀 通り名:織り成す風ウィンド・シルフィード
白河ことり ランク:S− 武器:小太刀 通り名:氷熾の乙女フリージング・フェイス
水越眞子 ランク:B+ 武器:ナックル
水越萌 ランク:A+ 武器:杖 通り名:聖なる戦慄ホーリー・ストライク
工藤叶 ランク:A 武器:鎌 通り名:幻惑の守人イリュージョン・ガーデン
天枷美春 ランク:C− 武器:爪
佐伯美奈子 ランク:B− 武器:小太刀
森川智香 ランク:C+ 武器:長刀


である。
かなりの強さを誇る寮である。平均ランクはA+か。暦を入れれば更に上がるだろう。
そうして、次は雫が質問をした。


雫「そう言えば、最近通り魔が出るんだって?」


その言葉に皆の反応が無くなる。少し複雑そうな表情が覗いている。


純一「そうらしいな。大騒ぎしてる」
美春「怖いですよね、通り魔。死神みたいな人だったって聞いてます」
智香「殺人鬼とも聞いてるかな」
暦「けど、これが一番可笑しいだろうね」


暦がそれだけ言って一旦切る。そして、少し間を空けてから口を開いた。


暦「この街で殺人事件は起こっていないんだ」


成る程、そう言う事か。噂だけが街に飛び交い、噂の事象は未だ起こっていない。
しかし噂は留まる事を知らない。


音夢「それが可笑しいんですよ。だって此処まで噂になってるって言うのに・・・・・・」
美奈子「そうだよね」
叶「まぁ、起こって無いなら起こってないに越した事無いんだけど」


皆が口々に意見を言う中、雫は暦とアイコンタクトを交わしていた。
恐らく、噂を媒体にしその噂を具現化させる者がこの街に来ている。
間違いなく奴だ。"それ"が出た所は例外なく血に飲まれる。
それで終わり。"それ"が過ぎ去った所は人間など生きていない。


雫「そっか、ありがとう」


礼を言う。それから五分もしない内に夕食が終わった。
皆、自分の部屋に戻って行く中、雫は暦と共に食堂に残っていた。


雫「この街に入っているのは"アレ"だな?」
暦「ああ、間違いないよ。このままならこの街は飲まれる」


二人の会話に怯えなど微塵も存在しない。
それはもう淡々と話を続けている。しかしその表情はかなり険しかった。
一体何の為にこの街を狙うのか。そんな倫理、"アレ"には存在しない。


雫「で、何ランクになったんだ?暦。二年前、Sランクだっただろう?」
暦「ああ。今はSSランクになった。もう直ぐSSSランクに入るさ」
雫「そうか。やっと此処まで来たか。ま、今回は動く気無いだろ?」
暦「ばれてるか。雫が来ないなら動こうと思ってたんだが、雫が来ると訊いて、なら任せようかと」


にやり、と不敵な笑顔を浮かべる暦。雫は苦笑しながら、溜息を吐く。
一体何時具現するか判らないが、可能性としては今日か明日である。
血の匂いが凄い。それこそ拭っても拭っても帯びて来るほどだ。


雫「とにかく、今日か明日だ。俺は夜、街に出る」
暦「判った。寮の方は任せときな」


話を終え、雫が自分の部屋に戻っていく。それを見届けた後、暦も自分の部屋に戻った。
部屋に戻った雫は直ぐに部屋の窓から飛び出した。
食い止めなければ間違いなく、この街は飲まれるだろう。
僥倖なのは、夜になると噂の所為で、誰も外に出ていない事だ。
これで自由に動き回れる。こんな時シオンが居てくれれば楽だが、流石に其処まで望む事は出来ないだろう。
雫は思考をやめて屋根から屋根へ飛んで移動していくのだった。