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智香「それじゃあ、何で出てるの?」
雫「だから、暇だから。じゃあ、そちらさんは何で出てるんだ?」
切り返しに、少し止まる三人。その様は子供がどう言い訳しようか考えている様である。
三人はバツが悪そうに苦笑し、口を開いた。
ことり「暇だったから、です」
雫「一緒か。で、三人は友達同士?」
再び、雫が質問する。その質問に三人は目を丸くする。
しかし頬を緩ませ、息を一つ入れ微笑みながら言った。
ことり「友達で」
智香「楽しくて」
美奈子「頼り甲斐のある」
「「「掛け替えのない親友です」」」
三人の顔は晴れやかな物だ。雫はそれを見て、自然に頬が緩んだ。
本当にこの三人はお互いの事を信用している。じゃないと、そんな笑顔は出ない。
ことり達はクスクス笑い、雫は空を見上げた。やはり青空。しかし、先程より晴れ渡って見えた。
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―――この世の陽炎―――
/6 ≪束の間の一幕≫
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午後の授業も、午前の授業とあまり代わり映えのない授業だったが、雫は寝る事なく起きて窓の外を見ていた。
暦「で、属性だが・・・・・・、そうだな。葉坂、答えられるか?」
雫「え?」
窓の外に飛んでいた意識を戻し、前に視線を送る。其処には暦の不敵な顔が見え、説明しろ、と口が開いている。
雫は鬱陶しそうに前を見た後、溜息を吐き、口を開いた。
雫「属性には火、風、水、氷、地、雷、光、闇、聖、魔、無、時の十二種類がある」
暦「そうだ。なら、優劣関係についてはどうだ」
雫「優劣はあまり存在しないが、無と時については無には無、時には時が弱点、と言うのが存在する。と言うのも、他の
属性、例えば火には水、水には火、と言うのが成り立つ訳だが、火で雷に攻撃しても十分な攻撃力が期待できるの
は知っての通りだと思う。しかし、無属性や時属性にはあまり通じない」
息を吐き、暦に目線を送る。しかし、暦はそのまま続けろと黙殺。
雫は再度溜息を吐いてから説明を続けた。
雫「時属性に他の属性で攻撃すれば、忽ち時空の彼方。無に攻撃すれば、殆どが相殺される。
これ等二つは"極位属性"と呼ばれ、他の属性の優位に立てる。よって、同じ属性でなければ相殺などは出来ない」
音夢「えっと、では、全属性最上級の魔術と言うのはどんな物ですか?」
雫「え〜〜〜っと・・・・・・・・・」
音夢の問いに雫は困った様にして、暦の方を向いた。
今の授業は魔術に関する物だが、これだと自分の授業になってしまいかねない。
自分は教師でもないのに、良いのだろうか。しかし、暦はまたも説明しろ、と黙殺した。
雫「それでも先生か・・・・・・。全属性に於いて、最上級魔術とは固有結界の事を意味する。それ故に最強は判らない」
眞子「リアリティ・マーブル?」
雫「そう、漢字で書くなら"固有結界"。聞いた事があるだろう?魔術の中でも最大の禁術で、最も魔法に近い魔術」
音夢「それが"固有結界"なんですか?」
ああ。と頷いて雫は暦に口を開いた。多少イラついているのは仕方ない事。
雫「で、何処まで説明すればいいんですか?暦先生」
暦「良いじゃないか。楽させてくれよ」
やはり教師に向いていない。確実に、完膚なきまでに。
雫は天井を仰ぎ、暦を軽く睨んでから説明を続ける為息を吐いた。
音夢「固有結界とはどんな物なんですか?」
雫「一言で言うなら擬似世界。一つ例を挙げるなら・・・、"獣王の海"。これは吸血鬼が使った物とされる固有結界だ」
純一「ビースト、キングダム?」
雫「そ。自分の中に世界を作り出すんだ。結界で作り出す擬似世界、それが固有結界だ」
雫の説明に耳を傾ける5−Aの生徒。雫の一言一言を聞き逃す事の無い様、細心の注意を払っている。
雫「ただ、固有結界って言うのは、無限の時間を紡げる訳ではなく、直ぐに消えてしまう」
眞子「何故直ぐに消えるの?」
雫「それは擬似的にも世界を作り出している為の反作用だ。世界はそれを許さない。直ぐに世界は擬似世界を潰しに
掛かるんだ」
純一「普通、どれ位の時間、世界に出しておけるんだ?」
雫「普通、十分位だ。大体それぐらい出せば、十分敵を殲滅できる。が、故の最上級魔術だ」
ふぅ、と溜息を吐く雫。正直、説明するのは慣れている。が、やはり先生がするものでは無いだろうか。
暦は笑いながら助かったよ、と言うし、もう少し教師と言う職業に誇りは持てない物だろうか、と溜息を吐く。
暦が立ち上がり、教壇に上がる。
暦「そう言えば、葉坂。ビースト・キングダムとはどんな物なんだ?私は見た事がないから教えてくれ」
雫「―――――、ビースト・キングダムって言うのは、自分の内面に世界を作り、その中から獣を出す。
聖獣でも、魔臣でも何でも出てくるって訊いてます」
純一「何だ、見た事ないのか?」
雫「まぁな、受け売りだよ」
言って座る。そうか、と暦と純一は言い、そのまま授業が再開となる。
しかし、変に目立ったかもしれない。と言っても後悔先に立たず。過ぎてしまった事は問いても意味がない。
雫はそう思いながら自身に嘲笑し、窓の外に再度目線を移した。空は何処までも澄み渡っていた。
授業が終わり、暦が教室から出て行く。但し、判らない所は葉坂に訊け、と余分な一言付きで。
その所為で、雫の回りには人だかりが出来ていた。
雫は皆の疑問を訊いては答え、訊いては答えと自転車操業ならぬ、自転車問答。正直、とても疲れている。
雫「暦の奴・・・・・・、帰ったら、覚えとけよ・・・・・・・・・・」
誰にも訊こえない程度の大きさで雫は呟いた。
その間も雫は皆に問われている。結局それが終わったのは、純一達が帰って三十分後の事だった。
「ばいばい、葉坂君」
「じゃあ、また明日ね〜〜」
ん、と適当に返し、帰る用意を始める。何が嬉しくてこんな時間まで残っていなきゃならないのか。
見れば他の生徒は誰一人居ない。まだ明るいが、直ぐにでも暗くなるであろう空を見て、溜息を吐いた。
と言っても此処に何時までも居る筈もない。雫は早々に踵を返し、教室から出た。
雫「疲れたなぁ・・・・・・」
誰にとも無く呟く。それは帰ってくる筈の無い独り言だったのだが。
??「そうなんですか?お疲れ様です、先輩!!」
一人の少女の声が聞こえて来た。どうやら独り言に対して、何かを言っている様だ。
どうでも良いが、独り言に反応されたとき、どうすれば良いのだろう。
雫「美春か」
美春「はいっ」
とても元気の良い少女、天枷美春が其処には居た。
しかし、此処に美春が居るのは可笑しい事だ。何故って此処は五年次の教室の前。
美春は四年次だった筈である。なら、何か用があって此処に来たのだろうか。
雫「で、美春は何で此処に居るんだ?」
美春「はいっ、実は風紀委員に入っているので、こうして校舎を見回っているのです!!」
成る程、と頷く。それならこの時間まで残っていても可笑しくない。
と、美春の後ろの方に新手の人影。
??「あら、雫君ですか?」
雫「音夢もか」
その人影は音夢だった。その手にはボードが握られており、其処に名簿の様な物が見える。
雫「美春は風紀委員だが、音夢もそうなのか?」
音夢「はい、そうです。美春と一緒に見て回っていたのに、行き成り走り出すから・・・・・・」
美春「えへへ・・・、すみません、音夢先輩」
音夢の溜息に美春が笑って返す。謝っているのに、笑っていると言う事は、謝罪感は皆無、と言う事か。
尚も言い合いをしている二人を雫は横目に見つつ、そう言えば今朝、廊下で感じた視線は何だったか、と―――――
雫「っ―――――!!」
瞬間、その視線が降って沸いた。敵か。雫は自然、その方向を凝視している。
その事に気付いたのか、音夢が声を掛けてくる。
音夢「如何したんですか、雫君」
びくっ、と音夢の方を見て、雫は何でも無い、と呟いた。
美春も気付いたのかこちらを見ている。二人の不思議そうな顔が印象深い。
雫「ちょっと視線を感じたものでな」
音夢「っ、その視線はどの方向ですか!?」
行き成り、音夢は大声を出し雫を威嚇―――、もとい雫に訊いた。
雫は驚き、ビックリとしたが、しかし方向を伝えた。それを訊き、音夢と美春が廊下を駆け抜ける。
一体何なのだろう。それよりさっきの視線の方が気になるが。
雫「お前か?今朝俺に視線を送ってきたのは」
??「ほう、気付いていたか」
その気配は背後に現れた。沸いて出たと言わんばかりの出現の仕方。
緊迫した空気が流れ、雫は喉がからからと渇きだした。
これはマズイ。このままでは―――――。
??「まぁ、其処まで震える物でもあるまい。俺は杉並だ」
言って、杉並は前に回った。喉が潤い、雫は思わず安堵の溜息を漏らした。
杉並はそれを見て、笑いながら雫に問うた。
杉並「何だ、其処まで怖かったのか?」
雫「ああ、まぁな」
本当に危なかった。さっきのはビックリした。
思わず心臓が飛び出す所である。冷や汗をかいていたのか、雫は額を擦った。
掌にもじんわりと汗が出ており、とても十二月とは思えない位である。
雫「悪いんだが、俺の後ろに立たないでくれるか?」
杉並「む?まぁ、良いだろう。先程の様になられては困るからな」
はっはっは、と馬鹿笑いする馬鹿。
対する雫も笑っている。こいつは敵ではない、寧ろ味方の方だ。
杉並は腕時計を見たかと思うと、ニヤリ、と不敵に笑った。
杉並「葉坂よ、先程の様に背後に立たれただけで、殺気を噴出されては困るぞ」
雫「え?」
杉並「時間だ。ではな!!」
やはり馬鹿笑いをして去って行く馬鹿。最早馬鹿一代。
しかし、其処まで殺気が出ていただろうか。出ていたとしても微弱だと思うのだが。
それにしても、変な奴にあったもんだ、と雫は苦笑し学校を後にしたのだった。
風見商店街。彼は其処を歩いていた。行き交う人通りは決して緩やかでは無いが、激しくもない。
やはり噂は流れている。
曰く、『その通り魔は殺人鬼だった』
曰く、『この世の物とは思えない、正に死神だった』
曰く、『吸血鬼のようだった』
物騒な会話だ。しかしそれがこの街を今支配している。
気楽に会話をして、平和だとは思うが、その実結構危機感を募らせている。
その証拠に、不良の溜まり場になるであろう、路地裏には人っ子一人どころか、動物すらいない。
居るのは同類の鴉ぐらいだろう。皆、人通りの多い所に居る。
雫「今日か、明日か・・・・・・」
どちらにしろ、自分は今日も夜の街に飛び出す。
その過程で出てくれば消せば良いだろう。全く以って厄介だ。
胸の中でごちり、そのまま人込みの中に消えて行った。
夕飯が終わり、夜。雫は昨夜と同じ様に、窓から飛び出した。
今夜は満月。恐らく今日だ。雫はポケットの中にあるナイフを握り、街を滑走する。
夜の街は死都。人一人いない街は、廃墟を思い起こさせる。滑走し、早三時間。時間は十一時になっている。昨日も寄った桜公園。其処は血がぶちまけられていた。
あるのは死体。に見せる為のゴミである。しかし血の匂いまで具現させれるとは。
??「ふふっ、来たんですね、雫君」
闇の中から声。雫はその目線をやや斜め前に向ける。
其処には髪が赤い、白い帽子が血で真っ赤になっていることりが居た。
酷く血が、血の匂いが濃い。
雫「中々染まってるな、ことり」
ことり「そうですね。ほら、帽子も真っ赤です」
クスクスと笑いながらことりは帽子を見せてくる。
まさかことりの姿で出てくるとは思わなかった。しかも最低なパターン。
死体。血塗れ。染まった帽子。手には血が纏わりつき、死神。いや吸血鬼だ。口から血が一筋流れている。
ポケットの中にあるナイフを握り、スタスタと地獄に足を踏み入れる。
ことり「私を殺すんですか?」
雫「ああ。サヨナラだ、タタリ」
斬。斬。斬。斬。
四度ナイフを走らせて、後は終わり。そのナイフの速さは神速の域だ。
何しろ腕の振りが並の使い手では見えないのだから。ことりはバラバラになり、風に乗って消えた。
しかし、タタリは終わっていない。"タタリの夜"の名は伊達ではない。
しかもさっきのはあまり力を持たない噂だったらしい、雑魚だった。
雫は地獄から変わった公園を後にし、次に現れそうな場所に走り出した。
走る事十分。路地裏からタタリの匂いがした。
雫は其処に躊躇無く入る。其処はやはり惨状だった。
?「ああ、やはりこれか。前の街の影響が大きすぎるな」
雫「やっぱり、その姿か」
その姿は、雫の親友、遠野志貴の物に相違なかった。
眼鏡は無い。目は蒼く輝き、これなら殺されても仕方がない、と言う幻想を思わせる。
志貴は低い声で、しかしはっきりと紡いだ。
志貴「吾は七夜。七つの夜を渡り歩く、最後の退魔師」
雫「本当に胸糞悪いな、"タタリの夜は"」
糞ったれ。胸中で吐き捨て雫は志貴となったタタリを睨む。
対する志貴はまるで鼻歌でも訊こえて来そうなほどの余裕ぶりだ。
しかし、殺気は放出されている。それにあわせるようにして雫も殺気を放出した。
雫「何だ、タタリってのは前の街の人間を使うのか?」
志貴「ふっ、これは吾にとっても驚きでな。まさか、この姿になるとは思いもしなかった」
雫「そうか。に、しても中々早い出陣だな、タタリ」
志貴「そうでもない。今は、十一時と言った所か。頃合だ」
言うと、志貴はそのまま雫とは反対向きに走り消えた。
雫もそれを見失わないようにして、走り消えたのだった。
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