全てを知りし者
季節は秋。徐々に過ごしやすくなり、紅葉が色付く季節…しかし、日本に1ヶ所
だけ例外がある。1年中桜の花が咲き乱れる島、初音島。その初音島から運命は
動きだす。
その日は大雨。桜並木の下を、カサをさしながら2人
の男女が登校中。
「はぁ〜夏休みが恋しいなぁ。かったりぃ」
彼の名は朝倉純一。「かったるい」が口癖のごく普通の高校2年生。
「何言ってるんですか兄さん。もう10月ですよ」
今純一をたしなめたのは妹の音夢。2人は血のつながりはないが、本当の兄妹として長い間暮らしてきたの
で本当の兄妹となんら変わりはない。
「10月か…次は冬休みだな。」
「まったく…」
そんな会話をしながら2人は歩いていたのだが、桜公園の前に差し掛かったとき、事件は起こった。
「そういえばさぁ…うおっ!」
「きゃあっ!」
なんと、純一の体に雷が突き刺さった。その衝撃で純一は吹き飛び道の横へ、音夢も衝撃を受け、桜の木に背中から激突した。しかし、音
夢は軽いケガですんだようですぐに立ち上がると、純一の元へと駆け寄った。
「兄さん!兄さん!ねえ、起きてよ!」
体を揺すぶってみるが反応はない。彼の顔は血の気が失せ、目は半開きで光が消えていた。
「いや、いやよ!ねえ!お願いだから…兄さん!」
音夢の頬を涙が伝う。しかし純一は一向に動かない。
「誰か、誰か助けてよ!」
「どうしたんですか、音夢先輩?」
音夢の声を聞き付け、一人の少女が寄ってきた。彼女は天枷美春。朝倉兄妹とは幼なじみでなついている1つ下の後輩だ。
「美春、兄さんが…兄さんが!」
「朝倉先輩!どうしたんですか!」
その後彼は救急車で病院に搬送された。
医師の説明によると、かなり危険な状態らしい。その日のうちに集中治療室に入った。治療室の前で茫然と立ち尽くす音
夢と美春。時間は10時。学校には連絡した。すると音夢は完全に、美春は半日
学校を休んでもよいとの事だ。2人の中には色々な想いが交錯しているのだろう
。2人とも静かに涙を流している。そんな時、多数の友人が駆け付けてきた。
「音夢!朝倉は…」
「眞子…今は面会謝絶。意識は今だに戻ってないのよ…」
水越眞子。純一の友達で、音夢の親友。かなりの美人だが、男勝りの性格。そんな彼女が、真っ青な顔で、今にも泣きだしそうだ。そ
のほかにも不安そうな顔が並んでいる。
純一の憧れの先輩で眞子の姉、水越萌。眞子とは対照的にポケポケしていて、のんびりした性格の女性だ。
それと学園のアイドル、白河ことり。純一とも仲が良く、誰にでも好かれる美少女だ。
クラスメイトの胡ノ宮環。話し方から何から、すべて和風の大和撫子だ。
女子高生漫画家の彩珠ななこ。あまり性格は明るくなく人との関わりは多くないのだが、なぜか純一と仲がいい。
無口な後輩、月城アリス。美春と仲が良く、そのせいで、純一とも関わりがある。華奢な体格だが、運動神経は非常に良い。
それと、クラスメイトの杉並と工藤。純一の悪友と言った感じだが、杉並の悪巧みに2人が振り回されるといった感じだ。
杉並は頭脳明晰、容姿も良いが風紀委員の手に負えないほどの危険人物である。
工藤の方は温厚な性格で、女ともとれる顔立ち。さわやかな少年だ。
そして…芳野さくら。純一の幼なじみで妹的存在。金髪碧眼の少女だ。外見は小学生だが天才的な頭脳を生かし、純一達が通う風見学園の教師をしている。
どの顔も心配そうで、青ざめている。そんな中、集中治療室のドアが開き、中から医師
が出てきた。かなり緊迫した面持ちで口を開いた。
「ご親族の方、いらっしゃいますか?」
音夢がビクッと体を震わせ、反応した。
「は、はい、私です」
「付いてきていただけますか?話があります」
かなり重い話のようだ。2人は集中治療室に入った。次の瞬間、音夢は言葉を失
った。ガラスで隔てられた空間には、純一がベッドに横たわっていた。体にはい
くつものコードがつながれ、口には酸素、腕には点滴。顔は相変わらず血の気が
ない。
「親族の方にだけお話します。この話を知り合いの方に話すのは、あなたの意思にお任せします」
「は、はい…」
音夢は完全に怯えきっている。
「今現在、彼は意識を失っていますが、命は大丈夫です」
「えっ!?」
音夢の顔が少し輝く。しかし対照的に医師の顔はかなり暗くなった。
「しかし…脳波等の状態から判断し、彼が意識を取り戻す可能性は…限りなく低いです」
「それって…」
「…俗には…植物状態と言われている状態です」
「そんな…」
そう呟き、音夢はその場に座りこんでしまった。
「起きる可能性が無いわけではありません。こちらも全力を尽くします」
「は、はい…」
そう答えたものの、音夢の目は焦点が定まっていない。そんな音夢を見兼ねた医師が音夢を励ます。
「あなたがしっかりしないでどうするんです。今、彼は必死に闘っています。一番彼に寄り添っていたあなたが強くいないと、彼も悲しいんじゃないですか?」
その言葉を聞いた音夢は我に返った。
「私が…強く?」
「はい。辛いということは分かります。しかし、信じれば道は開かれる。私はそう信じます」
音夢の目を見、諭すように言った。それを聞いた音夢は、大きくうなずいた。涙が浮かんでいるが、その目には決意の色が見て取れる。
「分かりました。私、がんばります。みんなにもこの事、話します。みんなで兄さんのこと応援します」
「そうですか。それでは、皆さんもお招きしましょう」
そう言うと、医師は廊下にいた全員を連れてきた。今の純一を見ての反応や、医師から状態を聞いたときの反応は音夢とあまり変わり無かった。
しかし、医師と音夢から説得され、気を取り直した。
病院を出る頃には昼を過ぎていて、音夢を除いた全員は学校に戻った。音夢は病院に残り、今日一杯は純一と一緒にいる事になった。
そして、夕方には純一は一般病棟の個室に移され、今日の騒動は一段落した…かのように見えたのだが、純一本人のさらなる大事件、そして、様々な人を巻き込んでいく事件は、ここから始まっていく…