全てを知りし者 第七話
全てを知りし者 第七話
「起きな!」
――なんだよ。
祖母の怒声で純一は目を覚
ました。
「憑依を覚えたぐらいで調子に乗ってんじゃないよ」
――は?別に調子に乗ってなんか…
「じゃ、さっきのはなんだ
い?調子に乗って友達に取りついて…悪いと思わないのかい!?」
――さっきはしょうがなかったんだよ!もう少しでバレるとこだったんだから!
「おまえが隠そうとするとあの娘…ことりだっけ?あの娘が傷つくんだよ。何か
あるたびに疑われ、友達の信用をなくすかもしれない。かわいそうだと思わない
かい?」
――そりゃそうだけど…声も聞こえないのに、信じら
れると思うのか?
「男ならなんとかするもんだよ!」
「まったく、情けない。そんな子だとは思わなかったよ!」
――どーにかするったってさぁ…
「それじゃあね。次に会う
までにヘタレを直しておくんだよ」
――ちょっ…
目覚めたときは、それほど時間がたっていないように感じられた。
「う…最近この夢ばっかだ…かったりぃ」
寝ている間に体は動くよう
になったようだ。立ち上がると、ゆっくりと教室に向かった。
「あれ?誰もいない…」
教室にはなぜか誰もいなかった。それもそのはず、そ
の時間は体育だ。窓からグラウンドを見ると男子はサッカーを、女子はソフトボ
ールをしていたが行ってもしょうがないので、教室で待つことにした。時計を見
ると、6時間目の終了まであと20分ほど。
「誰もいない教室ってのも
なかなか趣があるというか…」
親父臭いことを言いながら
教室を見回す。だがやることがないのも事実。
「暇だな…そーだ、練習練習!」
黒板の前に行き意識を集
中させ、ゆっくりとチョークに触れようとする。しかしやはりうまくいかない。
「集中ったってなぁ」
何度も試みるがなかなかうまくいかない。
「憑依はうまいのにな。や
っぱりコツってもんがあるのかな」
集中法を変えつつ試す。変
なポーズをとってみたり、目を閉じてみたり…だが、どうしてもうまくいかない
。
「ま、来栖川先輩になんとかしてもらうか。色々聞き
たいこともあったしな」
その時教室のドアが開き、授業を終えた女子軍団が入
ってきた。
「あ〜あ、今日は調子悪かったな」
「眞子…一人でホームラン3本も打ったうえにノーヒットノーランやっといて…
」
「何言ってんの!フォアボール1つ出しちゃったじゃない!」
「はは…」
失笑。
「あれ?ことりがいない…
」
女子のなかからことりを見つけようとするが、見当た
らない。環もいない。
「いい汗かいたね〜!」
純一がいるなどと分かるは
ずもなく、着替えを始める女子たち。
「…はい?」
着替えるのは当然だろう。
「音夢〜!ずいぶん派手なブラ付けてんじゃないの〜
!」
「ちょっ、眞子!」
「いいじゃないの〜見られ
ても減るもんじゃないんだし!」
「あっ…や、やめてよ眞子
!」
「ぶーっ!!」
何をしているかは想像にお
任せするが、かなり過激なことが目の前で繰り広げられているのだ。健康な男子
である純一は、鼻血を盛大に撒き散らした。
「はぁ、はぁ…女同士だと
こんな会話するのかよ…」
なお
も続くそれを見て、顔を真っ赤にしている純一。そんな時、自分がいる教室の隅
の方にななこがやってきて、遠慮がちに着替え始めた。先程までは普通に着替え
を見ていた純一だが、なぜか悪いと思ってしまいあわてて立ち去ろうとしたのだ
が…
どんっ!
彼は教卓に衝突し、派手に倒れ
た。当然教卓も吹っ飛んだわけで…
「きゃあっ!」
たく
さんの女子生徒が悲鳴を上げた。音夢も例外ではなく、その場にうずくまってし
まっていた。
「なっ…今のオレ…」
一瞬茫然とするが立ち直り、教
室を後にした。それとすれ違うように、逆側のドアからことりが入ってきた。騒
然としている教室を見て、何事かと眞子に尋ねる。
「実
はね…信じられないと思うけど…教卓が勝手に吹っ飛んだの。誰も触ってないの
によ!?あー、ビックリした…」
相当驚いたのか、額に冷や汗を
かいていた。
「へぇ。そんなことがあったんだ」
犯人の見当はついていることりだったが、極めて自然に言った
。
「そうなのよ。前は前で、音夢が吹っ飛んだじゃない?立て続
けにこんなことがあると、なんかこう不安というか…」
どうやら
眞子は、霊やら何やらの超常現象は苦手なようだ。それを読み取ったことりは、
眞子にやさしく声をかけた。
「大丈夫。これからはたぶんそんな
こと滅多にないと思うよ?」
「そうだったらいいけど…」
あまり信じていない様子で立ち去る眞子。ことりはそれを見送ってから着替え始
める。純一に見られている気がしたが、彼を信じて着替えを済ませた。そして帰
りのホームルーム。ことりにささやく声。
「今日は部活?」
それに対し筆談で返す。
(今日はお休みだよ)
「じゃ、一緒に帰るか。話
したいこともあるから」
(さっきのことっすか?)
「それも含めてな」
(了解っす)
その後すぐにチャイムは鳴り、二人(端から見ていると、ことりが一人
で帰っているように見える)は、校門を出てある場所へと向かった。それは、こ
とりも大好きな場所。魔法の桜の木の下である。
「実はさっきな…
」
到着してすぐに、純一は今日のことに関して説明しようとしたが、こと
りにさえぎられた。
「なんであの時朝倉くんは教室にいたの?」
「へ?」
「女子が着替えてたはずなんだけど…なんでかな?」
「ええと…それは…」
「それは?」
「あれだ、不可抗力ってや
つ?」
はっきり言って、絶対に不可抗力ではない。
「ふーん…」
「ホントだって!信じてくれよ!な?」
「そこまで言うなら、3割
は信じるっす。」
かなり微妙なラインだが、彼はそれで満足したようだ
。
「これでオレの疑惑は晴れた、と。それでなんだが、さっきのオレは物に触った
、というかぶつかった。今回触れた時は、緊急事態に焦っていた。前回は音夢の
ピンチだった。ということは…」
「ピンチに陥ったときだけ
触れるってこと?」
ことりは憶測を言ってみる。
「たぶん…そうだろうな。ってことは、物に触ることは練習じゃできないってこ
とだ」
「そんな…」
「不安そうな顔すんなって
!美人が台無しだぞ?」
「からかわないでよ!」
いきなりそんなことを言わ
れ怒ることりだが、顔は真っ赤だ。
「オレは悲観してないよ。
来栖川先輩ならなんか知ってるかもしれないし」
「それって…朝倉くんを召
喚したって人?」
「そ。ま、いつ呼ばれるかは分かんないけどな」
そう言うと、純一は空を見上げた。さっきまでは青空だったが、徐々に雨雲がか
かり、雨が降りそうだった。
「帰ろうか、ことり。誰か
さんみたいに雷に打たれたら大変だ」
「うん!」
二人は帰っていった。それぞれの思いを胸に…