青の朝。光が瞼を刺激する事数秒。彼は覚醒した。
ぐぐっと、背伸びをしベッドから降りる。
カーテンを閉めてはいたが、どうやら隙間から光が入って来たらしい。


??「んっ、今日も昨日と変わらず良い天気だな」


ポツリと漏らす。窓の外を眺めれば、何時もの景色が其処にはあった。
学園の制服に身を包み、身嗜みを整える。海音は髪が短く、容姿は整っており中の上くらい。身長は173cmといった所である。


??「海音〜〜〜!!朝よ〜〜〜〜!!」


下から声がする。毎日聞きなれた声。


海音「は〜〜〜い、今降りる〜〜!!」


俺―――暁風あきかぜ 海音みおと―――の日常を告げる声だった。







* * * 運命と言う名の二文字 * * *

第一話





下に降りると、歳より十は若く見えるであろう人物―――暁風 紗枝さえ―――が目に入る。
テーブルには我が父―――暁風 りょう―――の姿がある。
見慣れた光景。これが暁風家の朝の風景である。


紗枝「おはよう、海音。さっ、椅子に座って食べなさい」
海音「おはよう、母さん。そうするよ」
寥「おはよう、海音。今日からまたアカデミーだな」
海音「おはよう、父さん。そうだね、長期の休みだったからちょっと惚けてるかも」


苦笑しながら、寥と話す海音。寥は新聞を見ながら朝食を食べている。
紗枝はテレビのニュースを見ながら朝食を食べており、途中箸が止まるのも日常の一部だった。


紗枝「あら・・・、物騒な事件ねぇ」
海音「え?」


紗枝の声につられてテレビに視線を送る。と、そこには、


『現代の殺人鬼現る。最近、クロス国に入り込んだとされる殺人鬼"ジャック"は、四季市に出没し―――――』
寥「確かに物騒だな。四季市となるとこの街に入り込んでいるのか」
紗枝「そうらしいわね。また、仕事が増えるかもしれないわ」
海音「何時も思ってるんだけど、二人の仕事って?」


海音は二人の職業を知らない。訊いても決まって『企業秘密』の四文字で封じられる。
よって、二人の職業は闇に包まれている。


紗枝「企業秘密よ。それより、海音。時間良いの?」
海音「えっと―――――」


ピンポーン


言いかけてインターホンが鳴る。時間を見れば幼馴染が迎えに来る時間になっていた。
この時間のインターホンも、日常の物。海音は武器を持って、椅子を立つ。


海音「それじゃあ、行って来ます」
寥「頑張って来い」 紗枝「行ってらっしゃい」


両親の言葉を受けて、家を出る。其処には見馴れた幼馴染の姿があった。
ストレートヘアで髪は腰の少し上の方。そして何よりその容姿。
学園でも一位、二位を争う様な容姿の持ち主だ。身長は158cmと低いが。


?「おはよう、海音」
海音「ああ、おはよう。結」


その女の子の名前は神楽かぐら ゆう。海音の幼馴染である。


結「それじゃ、行こっか」


結が先に歩いて行く。海音の方が歩幅が大きいので直ぐに追いつき、そのまま肩を並べて歩いて行く。


―――――クロス国、四季市。それが海音達の居る国、街の名前である。
この世界にはクロス国、ブレイド国、サンシャイン国、アリア国の四つが有る。その中でも比較的治安の良い国"クロス"。それが物語りの舞台だった。


結「そう言えば、昨日のニュース見た?」
海音「ん?何かあったっけ?」
結「うん。確か"現代の殺人鬼"だっけ。その人がクロスのしかも私達の街に入ったって」
海音「ああ、それなら朝のニュースで見た。物騒だよな」


現代の殺人鬼"ジャック"。この人物は巷を騒がしている能力者の一人だ。武器はナイフ。
切り裂きジャックを真似た様な名前は手口まで真似られている。
死体は全て心臓を抉り取られている。その手口も実に鮮やかであると聞いている。


結「怖いね、最近物騒だし・・・・・・」
海音「そうだな・・・・・・・。ま、自衛団が如何にかするんじゃないか?」
結「だと、良いんだけど・・・・・・」


この世界には警察なんていない。有るのは自衛団。その町一つ一つに設けられている言わば警察の様な機関である。
一般人の団員も居るし、能力者の団員も居る。実力者が殆どの部隊である。


海音「ま、俺達がどうこう出来る問題じゃないよ。さっさとアカデミーに―――――」
??「おはようございます、先輩方」
??「おはようございます!!」


挨拶をされて振り返る。其処には後輩の藤本ふじもと 蜜柑みかん夏樹なつき 亜衣あいがいた。 藤本蜜柑はセミロングで三つ編みをしており、天然の入っている女の子。夏樹亜衣はショートカットで活発そうに見せる。
現に活発で元気一杯である。


海音「おう、蜜柑に亜衣」
結「おはよう、蜜柑ちゃん、亜衣ちゃん」


こうしてこの四人で、他愛無い話をしながらアカデミーに通うのもまた、日常である。


蜜柑「先輩方ニュース見ましたか?」
結「殺人鬼の話でしょ?見たよ」
亜衣「怖いですよね〜〜〜。暗くなったら一人歩き出来ませんよ」


そう言った話しをしながら、アカデミーを目指す。この三人の中で"能力者"は二人。勿論海音もそうだが。


能力者と言うのは、自身の中に眠っている不可思議な力を覚醒させた人間の事で、アカデミーはその能力者を養成するためにある。
能力者にはランクが存在し、"ポーン"から始まり、"、"ナイト"、"ハイナイト"、"ロールーク"、"ルーク"、"ハイルーク"、"ロービショップ"、"ビショップ"、"ハイビショップ"、"ロークイーン"、"クイーン"、"ハイクイーン"、"キング"がある。
"クイーン"から"キング"を取る事は能力者の頂点"十字会"に入る事が条件とされる。


つまり、アカデミーの目的は一人でも多く、"十字会"に匹敵する様な実力者を育てる事にある。


そろそろ、アカデミーと思った正にその時。


きゃああああああああああ!!!


一つの悲鳴が駆け抜けた。突然の事に固まる三人。海音はその三人を置いて、駆け出していた。
悲鳴が聞こえたのは、道を抜けた路地。海音は四人の中で一番に現場に辿り着いた。


海音「此処か!!」


其処には犬の化け物―――妖者―――が居た。
妖者は倒すべき敵。魔物とか言われている、そんな存在。


悲鳴から判っていた事だが、女性が襲われている。海音は更に駆け、犬と女性の間に滑り込んだ。


海音「らぁっ!!」


滑らかに長刀を抜刀。そのままの勢いで犬に斬りかかる。犬は少々敏捷性が高く、紙一重でかわされた。
海音は警戒しながら、女性に話しかけた。


海音「大丈夫ですか?」
「は、はい。大丈夫です」
海音「良かった・・・。もう大丈夫ですよ。この妖者は俺が相手をします」
結「海音!!」


睨みながら居ると、結達が到着したらしい、息を切らせながら海音の名を呼んだ。


海音「三人は回りを警戒しながらこの人を保護してくれ。俺が妖者を片付ける」
蜜柑「無理ですよ、先輩!!先輩のランクでは―――――」
海音「"二級妖者"は倒せない。ってか?全く、ランクが全てじゃないぞ?」


海音は長刀を納刀し、構えを解く。そうして、掌を犬―――ファング―――に向けた。


妖者には級が存在する。その力は級が上がる程に強くなる。三級から、特級までが存在し、二級を相手にするなら最低ハイナイトの力が必要となる。


海音「妖者相手なら能力使っても問題無いからな」


掌から光が零れる。それが合図。文字の羅列が妖者から流れる。目の前が文字の羅列に埋められる。
結は知っているが、亜衣と蜜柑は海音の能力を知らなかった。と言うのも、海音は能力を使うのを恐れているからである。
その理由はまたの機会に語るとして。


海音「これが邪魔だな」


文字を指で選びそれを消す。その瞬間、ファングは行動を止めた。首を振り、まるで何故此処に自分が居るのか、それが解らないようだった。


海音「じゃあな。生まれ変わるなら、普通の犬に生まれ変われ」


抜刀の構えを作り疾駆。そうして、高速の抜刀。



鎖幻・風舞・壱の舞―――風叉―――




抜刀の瞬間が判らない程の速さで抜刀。ファングは真っ二つとなり、沈黙した。
ファングはそのまま灰となって消え、風に運ばれていった。


蜜柑「凄いです、先輩!!」
亜衣「そうです、凄いです!!」
海音「はは、有難う」
「あのっ、有難うございました!」
海音「いいえ。気を付けてくださいね」
結「三人共、そろそろ時間やばいよ!!」
海音「おっと。じゃあ、俺達はこれで!!」


来た道を戻って行く四人。女性はその後姿を見て、もう一度お辞儀をし、その場を去って行った。
因みに、普通の学校と同じ様に始業式がある訳ではないが、少し早く始まる事を失念していた四人が、それぞれの担任に叱られたのはまた別のお話。