教室に遅れて入り、海音と結は頭を下げながら学園アカデミーに入る。
クロス国"能力者養成機関"アカデミー≪クロス≫。
その名の通り、と言いたい所だが、実は一般人もアカデミーに通うものは少なくなく、半分半分と言った所である。


能力者養成機関は国ごとに四つあり、アカデミーの後に国名を言うのが普通だ。


結「それにしても、久し振りに使ったね、能力」
海音「ん・・・・・・」


複雑な表情をして、黒板を見る。もう直ぐテスト前だと言う事もあり、先生が躍起になって教鞭を奮っていた。







* * * 運命と言う名の二文字 * * *

第二話








一時間目が終わり、休み時間に入る。
アカデミーにはクラスの優劣が無く、ランクが高い者も低い者もい交ぜになっている。
結は海音の幼馴染で、その暦は十五年にもなる。要は物心ついた時から一緒なのだ。

と言っても、海音に特別な感情は無いのだが。
勿論、男色でも無い。


??「今日は遅かったじゃない。何かあったの?」


一人の女生徒が話し掛けて来た。
この女の子はさざなみ 沙耶さや。海音と結のクラスメイトで、結の親友でもある。
ショートカットで、ボーイッシュ。だが、結構人気があるのだとか。


海音「ああ、ちょっとな」
??「どうせ、遅くまで神楽と宜しくやってたんだろ?」


羨ましい奴めっ、と言ってくる馬鹿。この馬鹿は佐原さはら 一輝かずき
髪は金髪みたいな茶髪で、ぱっと見モテそうだが、性格上少しそのイメージを払拭させている。
海音と悪友で悪戯をよく一緒にやっている。


海音「何が、宜しくやってた、だ」
結「そ、そうだよっ。妖者が出たからそれを対峙してたのっ」
沙耶「へぇ〜〜〜。何級?」
結「二級、だったかな」


話に花を咲かせている二人。
一輝もその話に参加し、根掘り葉掘り聞き出そうとして奮起している。
海音は溜息を吐き、一輝を殴ろうとして止まった。


沙耶「えっ?海音が能力を使って倒した?」


その一言によって。
見れば一輝はおろか、クラス―――言い忘れていたが、Cクラス―――に居た全員が此方を見ている。

海音はアカデミーにいる時、対人戦の時は能力を使わない。
使おうとしないのだ。まるで何かを恐れているかのように。


一輝「本気か、暁風。お前が能力を使った所見た事無いけど、使えたんだな」
海音「あのなぁ、使えなきゃ能力者ランク貰え無いだろ」


苦笑しながら一輝に言い返す。
一輝は、まぁ、確かになぁ。と言っているが納得はしていない。
一度も能力を使った所を見た事が無いのだ。なら見て見ないと納得できる筈が無い。


沙耶「確かにそうだけどさ。それに相手は二級でしょ?ナイトのあんたが勝てる訳無いじゃ
    ない」
海音「はぁ・・・、お前も蜜柑か。ランクが全てじゃないっての」


ランクはあくまで目安だ。それ以上でもそれ以下でも無い。
ポーンランクでハイルークの力を持つ者と、
ルークランクでルークの力を持つ者。
どちらが強いかなんて判り切っている。要はそう言う事だ。
見かけで強さを判断している内は強くないと言っているのと同じである。


結「けど、海音。何で、能力を使おうとしないの?」


ストレートな質問に海音は思考する。
本当の事はどうあっても言えない。それは幼馴染であろうが。
そして、あまり嘘も言いたくない。矛盾を抱えたまま、海音は口を開いた。


海音「使いたく無いから。疲れるしな」


嘘は言って無い。ただし事実は覆い隠した。
其処まで話してから二時間目のチャイムが鳴る。休み時間は十五分間あるが、やけに長い様な時間だった。
沙耶と一輝が自分の席に戻って行く。結は海音の席の隣である。
ここら辺も、腐れ縁である事を示していなくも無い。


海音「(ほんと、いらない事言ってくれるよなぁ、結も)」


一人、内心ごねる。まぁ、言っても仕方の無い事だが。
つい、と窓の外に視線をずらす。今日も今日とて天気が良い。
此処一週間は雨が降っていない。と言う事は纏まった雨が降るかもしれない。
ま、それは良い事だ。視線を教室に巡らすと、やはり皆黒板に書かれている事を懸命に書き綴っている。

海音は何もしていない。海音は結構頭の良い部類に入る。学年でも五位以内に入ると言う、上位のレベルに居る。
それもこれも、両親がとてつもない程の知識を海音に教え込んだからだった。


つまり、アカデミーで習う物は全て知っている。知識として入っているのだ。
眠い。と、欠伸を噛み殺す。横では結がノートを書き写している。
一輝は寝ている。沙耶もまぁ頑張って書き写して居るだろう。


海音「(三、二、一・・・・・・)」


キーン、コーン、カーン、コーン


チャイムが鳴り昼休みに入る。昼は全ての学生のランク更新となっている。


アカデミーに入っている生徒全員は、アカデミーのランク更新日にランクを更新している。
勿論一般でも更新できるが、アカデミーのランク更新はお金が要らない。
だから、アカデミーの生徒は一般で受けたりはしなかった。


結「学食行こっか、海音」
海音「そうだな」


海音と結が教室を出る。教室を出る際、一輝と沙耶に学食に行くか、と聞いた所、沙耶は弁当、一輝はパンを持参していたらしく、二人で行く事になった。




学食は、やはりと言うか混んでいた。結構広いのだが、それでも殆どの席が埋まっていた。
どうしようか、と見回してみると、知った顔が此方を向き、手を振っているのが見えた。


海音「よう、功、零奈」
功「よっす、お二人さん」
零奈「こんにちは、海音さん、結さん」
結「こんにちは、氷原君、零奈さん」


この二人は氷原ひはら こう蘿蔔すずしろ 零奈れいなである。
功はパッと見、派手なライトグリーンの髪の毛、背は海音と同じ位である。顔に締りが無く、楽観主義。
零奈はセミロングのストレート。黒髪が良く似合う女生徒で、同年代でも下級生でも敬語を使う。


そんな二人も、海音と結の友達だった。


功「席があって良かったな、海音」
海音「ああ、感謝してるよ。あのままだと食べられなかったからな」
零奈「それにしても、結さんと海音さんは本当に仲が良いですね」


零奈が今更だが、そんな事を言って来た。
確かに中が良い。それは言い変えれない事実だ。何と言っても物心ついた頃から一緒なのだ。仲が良くなければ、今頃は離れ離れになっているだろう。


結「幼馴染だから、ね」
海音「ああ・・・・・・。にしても、やっぱり忙しないな、今日は」


ざっと、食堂を見渡してみる。おもむろに席に座り、直ぐに食べては出て行く生徒が多い。
金は天下の回り物、と言うが、コレでは人は天下の回り物である。
原因はどう考えても昼からのランク更新だろう。


ランク更新で良い所を見せ、上に上がれればそれだけ良い。
この世界では強い事に越した事は無いからである。


功「まぁ、ランク更新日だからなぁ、今日は」
零奈「私と氷原君は関係無いですけど」
海音「そうだったな」


この二人、氷原功と蘿蔔零奈は一般人。能力者で無いので、ランク更新をする必要が無い。
この日は一般人が得する日で、午後はランク更新の戦闘を見ようが見まいが自由なのだ。


零奈「頑張って下さいね、二人共」
功「見に行くからな。と言っても、海音は能力使わないからなぁ」
海音「放っとけ」


言って無表情になるが、一瞬で押さえ込む。
その表情の変化を見極める事が出来るのは、結しかいない。といっても原因を知ってはいないが。


結「・・・・・・・・・・・」
功「どうした?神楽」
結「う、ううん、何でも無いよ!!」


勤めて明るく言い、結は再度海音を見た。
その眼には深い黒色が携わっており、それを見るたびに、結は言い様の無い胸の痛みに襲われる。
その横顔だってそうだ。昔、無表情のままの海音を見た事があった。
その時の海音は今にも消えてしまいそうな程儚げだった事を覚えている。


海音「さて、と。闘技場に行くか。そろそろ時間だし」
結「・・・・・・そうだね。それじゃあ、ね。二人共」
功「ああ」 零奈「はい」


二人に別れの挨拶をしてから、二人で闘技場に歩いて行く。
昼休みはまだまだ半分あるが、ランク更新時の戦闘の為に準備をしている生徒も多い。
そしてこの二人の内一人―――神楽結がそうだった。
海音は最初からランク更新に対して、特別な物は無かった。


結「今日こそ、"ハイビショップ"になれるかなぁ・・・・・・」


不安そうに呟く。それを訊き、海音は宥める様に、それで居て励ます様に言った。


海音「大丈夫だって。やる前から弱気は無しだ。頑張ってみろ」


微笑みを携えながら、結に告げる。
結はその微笑みに当てられ、頬を紅くすると同時に、不思議と緊張が解けるのを感じた。
そうして、拳に力を入れ気合を入れる。


結「そうだね。うん、頑張ってみる」
海音「ああ、頑張れ」


再度励まし、他のメンバーを見る。
剣を素振りしている者、筋トレをしている者、暗器を仕込んでいる者、と多々いる。
こうして波乱が有るか解らない、ランク更新戦闘が開始されるのだった。