闘技場にはアカデミーに居る全員とまでは行かないが能力者が来ていた。
観客席には能力者の参加して居ない者と、一般人の殆どが来ていた。
ランク更新は決まった行事以外のお祭り事みたいなものである。


さて、ランク更新には試験官がおり、そのランク毎に割り当てられている。
その試験官を負かすか、認めさせればランクがアップし更新される、と言う仕組みだ。
が。試験の時、一回でも能力を使わなければどれだけ強くてもアップする事は無い。


海音「さて、俺の番は・・・・・・・・・」
結「私は―――――」


二人で掲示板を眺める。順番的には結が先の十番目である。
アカデミーにはビショップクラスはそう多くなく、と言っても少ない訳でもない。
なので、結の順番は早くも無く遅くも無い物だった。海音は三十番目。ナイトは多い。


結「私が先だね」
海音「そうだな」


呟きを掻き消す様に、客席が沸く。ランク更新の試験が今、始まる。







* * * 運命と言う名の二文字 * * *

第三話








アカデミー≪クロス≫の人数はおよそ三百人。一年次、二年次、三年次とあり、一学年毎に約百人前後となっている。
クラス数はA、B、Cとあり、アルファベットの優劣は無い。


一通りリングを見る。皆やる気満々で試験官と対峙している。
結は忙しなくあたりを見ている。まるで誰かを探しているみたいだが、はて。


結「あっ、沙耶〜〜〜〜!!」


どうやら沙耶を探していたらしい。結が呼ぶと、一直線に沙耶がこっちに歩いて来る。


沙耶「探したわよ、二人共」
海音「あぁ、悪い。一輝は?」


悪友の名を上げる。一輝が此処に来ないはずは無い。
アイツは"ビショップ"。結と同じランクで武器は飛針と言うまた古風な武器だ。
能力は"空白"だったか。


沙耶「ああ、アイツなら第二リングで更新試験を受けてるわ」
海音「中々早い順番だな」
結「ちょっと見に行こうか」


三人で第二リングに向かっていく。近くには次の順番を待っている人達で溢れている。
第二リング上に居るのは一輝だ。しかし、流石にビショップランクなのか、そうそう攻めれていない。
と言うか、逆に攻められている。


海音「あれは、勝てないな」
結「そうかな、互角でしょ?」
沙耶「確かにね。何で負けると思う訳?」
海音「ま、見てろよ」


二人の言葉に曖昧に返し、三人でリングを見る。
一輝の得意技である、"佐原飛針術・功の巻・天砲"を繰り出している。
"天砲"は三本を同時に投げ、更に振動を与え抉ると言う技だ。
しかし、そんな衝撃を受けながらも、試験官は反撃に出ている。後はじり貧。


沙耶「本当に負けたわね・・・・・・」
結「うん・・・・・・」


二人驚いているが、海音は気にしていない。
一輝は悔しそうに指を打ち鳴らし、リングから降りて来た。


一輝「何だ、お前ら居たのか」
海音「惜しかったな」


一輝に話しかける、海音。しかし、その声色には含みが入っている。



―――――何故、手を抜いた?



それを知っていて、一輝は無視して応える。


一輝「まぁな。あの試験官強い」
沙耶「確かにね。あっと、もう直ぐ私の番だわ」


それじゃあね、と沙耶が第四リングの方に走って行く。
一輝は二番目だったらしい。それなら未だ結の番まで時間が有るだろう。


海音「如何する?沙耶の試験、見に行くか?」
結「うぅ〜ん、私は良いよ。ちょっと精神統一したいし・・・・・・」
一輝「そうか。俺は言ってみるつもりだが、海音は?」
海音「俺も言ってみるかな。どれだけ強くなってるか知りたいし」
結「うん。それじゃあ、ね」


結の言葉に、ああ。と頷き一輝と歩いて行く。
途中第五リング上に亜衣が上がっているのが視線に入って来た。
緊張しているのか、少しテンションが低い気がするが、まぁ、良いだろう。


「漣 沙耶。リングに上がりなさい」
沙耶「はいっ」


試験官の言葉に意気揚々と上がる沙耶。沙耶は"ハイルーク"で小太刀を使っている。
能力は"破壊"と言う、また物騒な能力だ。


「では、始める。用意は良いか」
沙耶「はい」
「では・・・・・・・・・始めっ!!」


試験官の声が響き、沙耶は小太刀"皐月"と"孤燕"を抜刀し、駆ける。
皐月は長い刀身、孤燕は少し短い刀身を持っている沙耶の小太刀の銘である。


沙耶「はぁっ!!」


一閃。沙耶の一撃は試験官に容易く弾かれ、沙耶は一旦距離を離す。
そうして、少し間を置いてからまた駆け出した。
眼の色が黒色に変色している。能力が発動したのだ。


能力者は能力を発動すれば眼の色が変色する。級によってその色は異なる。
つまり、眼の色を見れば何級の能力を使っているのかが判るのだ。


因みに黒は第二級である。


沙耶「吹き飛べぇっ!!」


一撃目とは比べ物にならない程の威力が試験官を襲う。
試験官も予想以上だったのか、少し舌打ちをして、受け流した。
この試験官は実力者だ。海音の本能が警鐘を鳴らす。
沙耶では勝てない。どう考えても動きが違い過ぎる。


沙耶「まだっ!!」


天宵小太刀二刀術・一の技―――孤乱―――



小太刀による、二連撃。右方向から一撃、左方向から一撃。
試験官は少し顔を歪めたが、其処までのダメージでは無いらしく、直ぐにその隙だらけな身体に反撃した。


「隙がありすぎだ!!」
沙耶「きゃっ!!」


敗因は隙だった。沙耶の事だろう、どうせ孤乱で決まると思っていたのだ。
油断大敵。沙耶はそのまま降参し、ランクの更新には至らなかった。


一輝「アレは、漣の判断ミスだ」
海音「ああ。同情の余地は無いな」


しょぼ〜〜〜ん、と言う擬音語が聞こえて来そうなほど落ち込みながらリングを降りる沙耶。
その姿に苦笑し、一先ず海音と一輝が近寄った。


沙耶「あ〜〜あ、負けちゃったな〜」
海音「まぁ、次があるって。と言っても来月だけど」
一輝「ま、その時までに強くならなけりゃな」


勿論、俺も。と付け加える。沙耶も一輝も負けたからと言って落ち込みはしない。
と言うかこの学園の生徒はあまり落ち込む奴は居ない様だ。
寧ろ、躍起になってランクの更新を目指す者ばかり。
要は負けず嫌いの宝庫と化している。


海音「けど、試験官強かったな」
一輝「ああ。最低でも"ビショップ"はあったんじゃ無いか?」
沙耶「それは私も感じたよ。孤乱でいけると思ったのに・・・・・・」


不満気に、愚痴をたらたら零している。
しかし、過ぎた事は何度言っても戻れる筈も無い。
沙耶はよしっ、と気合を入れ直し、愚痴を仕舞い込んだ。
本当に、負けず嫌いばかりだなぁ、と内心思った。


海音「さて、結の所に「先輩方」―――亜衣か」


最近、この入り方が多いなぁ、と思いながら振り返ると、其処には言った通り亜衣が居た。
亜衣は"ルーク"でチャクラを使う能力者だ。能力は確か"強化"だったと思う。
少し落ち込んでいるなぁ、と感じながら、しかし明快な口調で亜衣が口を開く。


亜衣「こんにちはです、先輩方。どうでした?」
一輝「俺は負けたな。恥ずかしながら」
沙耶「私も・・・・・・」
亜衣「そうなんですか、私もです・・・・・・」


一気に場が暗くなった。沈黙が痛い。大体俺は未だ更新試験が終わってないので、その会話に入っていく材料を持ち合わせていない。
多少、顔を引きつらせながら、三人を促して結の居る所まで歩いて行った。


結「あれ、海音・・・・・・って、如何したの?三人共」


結が首を傾げるのも当然だ。だって、死んだ魚みたいな顔をして着いて来るんだから。


沙耶「何か、失礼な事考えてなかった?」
海音「そんなまさか」


勘が宜しい事で。結の番はもう目前に迫っている。
今の順番が九人目だと言う事なので、此処に居る事にした。


「神楽 結さん。リングに上がって下さい」
結「あ、順番だ。それじゃあ、行って来るね」
海音「ああ、頑張れ」


海音の他の三人も海音と同じ様な言葉を発し、それに結は笑顔で返しつつリングに上がった。
結の武器は短刀。能力は"制御"だ。


「神楽 結。準備は宜しいか」
結「はい」
「では、始めっ!!!」


試験官の声が高らかに響く。結のランク更新試験が幕をあげた。