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幻を見ている。
何時になっても消えない幻。
その幻が見える様になったのは、何時からだろう。
せめて今は。
その幻を見続けていよう。
* * * 運命と言う名の二文字 * * *
第四話
短刀"朧"を構え、試験官の動きを観察している結。
対する試験官もまた、小太刀を構えたまま結の動きを観察している。
正直、結は強い方に入る。実際ビショップクラスに在籍しており、スピードもかなりの物だ。
攻撃力と言うか、力が無いのが痛い所だが。
結「"御する妖精"神楽結、行きます」
瞳の色が緑から黒に変わる。初めから全力。能力開放状態で、結は駆け出した。
同時に、何かを呟いた瞬間試験官の顔色が変わった。
「ほう、能力か。しかも"制御"とは・・・・・・」
結「はぁっ!!」
結の能力"制御"は多くの使い道がある。一つは自分自身の制御。
相手の能力の負担を制御出来たりする所が、結構使い勝手の良い能力だ。
そして、今使っているのが"相手の身体能力の制御"である。
試験官は先手を取られ、しかも能力が"制御"だった所から驚愕を示したのだ。
結の小太刀が試験官に迫る。上段からの斬り降ろし。だが、試験官は持っていた小太刀で受け流した。
結「くっ、まだです!!」
「中々、見所があるが、まだハイビショップにはなれんぞ」
試験官の眼の色が黒色に変わる。
しかし、大きな変化は無いな、と思ったその時、
結「くっ、重っ・・・・・・」
結の小太刀に変化が訪れた。
刀が重くなる、と言う事なら"重力空間"か、"累乗"か"磁場"。前の二つは一級能力である為、黒ではなく銀色になるはず。
という事は"磁場"だろうか。海音はこう言う観察等に力を入れる。情報を仕入れていれば、それだけ戦闘でも有利になる。
情報は持っていて損は無い。
「重いだろ。俺の能力は"磁場"でな。リングに磁力を与える事により短刀を重くしたんだ」
結「くっ、なら・・・・・・」
自分の短刀を見ながら意識を集中させる。
"磁力"の負担を制御したのだ。だが、"制御"には一つ弱点があり、二つの対象を制御する事が出来ない。
よって。
「行くぞ」
試験官の体、と言うより身体能力が格段に上がる。もとに戻っただけだが、それでも速く見える。
結は軽く顔を歪めながら短刀を構えなおす。
試験官の動きは想像以上の物で、最初に制御しておいて正解であった事を物語っている。
「ふっ!!」
結「くっ!!」
防戦一方になっている結。手数にも差があるのでそれも仕方ないだろう。
そして、能力の使い方も相手の方が勝っている。
能力の操作が上手いのだ。結は翻弄されており、能力である"制御"を上手く使えていない。
これが実戦を経験した者としていない者の差だろうか。
結「やあぁっ!!」
櫻玄流短刀術・一の技―――葉乱―――
連続で短刀を振り、およそ十回繰り返す技である葉乱。
これは相手へのダメージを考えてはおらず、防御する方でよく使っている技だ。
試験官はしかし、そんな物無いかのごとく、小太刀を振るった。
「力のない防御は意味が無い」
結「きゃあっ!!」
一閃。それだけで無数の刃は防がれた。
そして、心臓の場所に刀をポイントされる。勝負は決まった。
結「―――――降参です」
「まだまだ、もう少し強くなって来い」
結の眼の色がもとに戻り、試験が終わった。
結は少し悔しそうな顔をし、リングから降りてきた。
結「負けちゃった・・・・・・」
海音「ま、今回は諦める事だな。少し動きが硬かったし」
亜衣「そうですか?凄かったと思いますけど・・・・・・」
沙耶「そうね。私もそう思うわ」
ねぇ。と沙耶が一輝に話を振る。
一輝は少し考えた後、ああ。と首を縦に振った。
やっぱり一輝も気付いていたらしい。
大体最初から能力を使うなんて、自滅行為も良い所だ。
それもどうでも良い事だが。
言っても仕方の無い事だし、過ぎた事はどうにもならない。
海音「さて、最後は俺か」
結「頑張ってね、海音」
亜衣「先輩、頑張って下さい!!」
一輝「ぜひとも能力を見せてくれよな」
沙耶「そうね」
海音は曖昧に返事して、"ナイト"の更新試験が行われるリングに向かった。
まぁ、勿論の如く皆着いてきているが。
リングの上にいる者達が色々な表情を抱えて降りてきている。
受かった者や落ちた者。他様々な表情を堪能しているのも束の間。
「次、暁風海音」
海音「俺か」
それじゃあ、やりますかね。と心の中で溜息を吐きながらリングに上がる。
後ろから突き刺さる視線を無視し、リングの中心まで歩いて行く。
「君は確か、能力を使わないんだったね」
海音「まぁ、時と場合によります」
「そうか。判っているね?能力を使わなければ昇格は出来ない」
海音「ええ。始めましょうよ。時間も差し迫っているみたいだし」
そうだな。と試験官が相打ち、試験官の掛け声のもと、海音の試験が始まった。
足のつま先をトントンとした後、疾駆。その速さは"ハイビショップ"並みである。
それは周知の事実である。
"能力を使えない一般人"ではなく、海音の場合は"能力を使わない一般人"。
悪く言えば落ちこぼれなのだが、それでも純粋な戦闘において、海音に敵う人間はアカデミーにはいない。
「っ、強いな、君は・・・・・・!!」
海音「それはどうも」
連続で太刀を振るう。その速さについていけている試験官は、それでも海音の戦闘力の高さに舌鼓を打った。
正直、"ナイト"のレベルではない。しかし、能力者としては欠陥品だ。
能力を使わないのであれば、どれだけ強くても意味が無い。
能力者との戦闘はそんな物である。
「能力、発動」
目の色が黒色に変わる。
風が吹き荒れてきた事から、恐らく風を操れるのだろう。
それが確信に変わるまで然程時間は掛からない。
「集え、我が下に」
試験官が紡ぐと、試験官の身体に風が纏わりつく。
海音は舌打ちをしつつ、試験官に速度を上げて近付く。
「甘いな」
海音「くそっ!!」
しかし、吹き荒れる風は近付く海音に容赦しない。
問答無用で切り傷を付けていく風に、何の手も思いつかないのか、海音はその場に佇んでいる。
能力を使えば良いのに。そう誰かが言った瞬間。
試験官が軽く手を振るった。
海音「おっと」
鎌鼬状のそれは決して見える筈は無いが、それを海音は感じて避けた。
試験官はやはり容赦しない。連続で鎌鼬を飛ばし、海音の体を傷つけていく。
海音「仕方ないな・・・・・・」
身体を極限まで沈めて、抜刀の構えを取る。
神経を集中させて、風が風を切る音を聞き分ける。
自然、目は瞑られていた。
ヒュ・・・・・・・・
鎖幻・疾舞・参の舞―――絶死空月―――
一瞬。確かに海音は消え去った。"絶死空月"は自身の身体能力を一撃に集め、全力で踏み切り、斬り裂く技である。
尚、鎖幻・"風舞"は普通の技、"疾舞"は奥義の部類に入る技である。
全ての風を使っていなかったのが良かったのか、それとも最初から止める気だったのか知らないが、海音の抜刀は試験官の目の前で止まっていた。
海音「降参です」
これ以上は無意味、と言わんばかりにさっさと踵を返してリングから降りる海音。
しかしそれを試験官が止めた。
「待て・・・・・・」
海音「何ですか?」
「何故・・・、能力を使わない」
海音「―――――」
海音はその質問を無視して、リングを降りた。降りた先に居たのは驚愕を張る面々。
結「海音、また強くなった?」
一輝「おいおい、強すぎだろお前」
沙耶「何で能力使わないのよ」
亜衣「先輩、かっこ良かったです!!」
そんな言葉の往々。海音は少し苦笑いで、その場を締めくくった。
何だかんだ言って、結局海音がリーダーみたいな物らしい。ランクなら一番下だが。
ランク更新試験は終わった人から帰っても良い、と言う事になっているので、海音達は帰る事にした。
その帰り道に、いざこざに巻き込まれるが、そんな事今は知ったことじゃなかった。
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